2022 Fiscal Year Research-status Report
昆虫からツチダンゴ菌へ宿主転換した冬虫夏草は,宿主を生きながらえさせているのか?
Project/Area Number |
22K15180
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Research Institution | Tochigi Prefectural Museum |
Principal Investigator |
山本 航平 栃木県立博物館, 学芸部自然課, 研究員 (60806248)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 冬虫夏草 / ツチダンゴ属 / 宿主転換 / 分離培養 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の計画通り、初年度はトリポクラジウム属菌類の子実体を本州各地において採集し、菌株の確立と分類学的検討を重点的に行った。その結果、昆虫寄生性のトリポクラジウム属の未記載種3種とツチダンゴ属寄生性のトリポクラジウム属の未記載種2種を見出した。このうちツチダンゴ属寄生性の1種については、従来ツチダンゴ属寄生性の種では知られていなかった赤紫色の色素を含む子実体を形成しており、rDNA配列を用いた予備的な分子同定の結果、トリポクラジウム属内の新規系統に位置する可能性が示された。また、赤紫色を帯びる子実体は、セミ幼虫に寄生するトリポクラジウム属の一種に類似していた。したがって、本種はトリポクラジウム属系統において昆虫寄生からツチダンゴ寄生への宿主転換が生じたタイミングを解明するうえで重要な存在であると考えられるため、現在、記載論文を準備中である。 また、ツチダンゴ属寄生性のトリポクラジウム属の中でも、タンポタケTolypocladium capitatumやその近縁種は寒天培地上での胞子発芽誘導が困難であることが知られていた。そこで、胞子発芽を促進する条件の解明を試みた。その結果、タンポタケ近縁種の子嚢胞子は、物理的な刺激と温度刺激を組み合わせることで、一般的な培地であるポテトデキストロース寒天培地上で容易に発芽することが明らかになった。今後、この方法が他のトリポクラジウム属種にも適用可能か検証を進めたい。 また、共同研究者とツチダンゴ属Malacodermei節の日本産種の多様性解明を進め、多数の未記載種が国内に存在することを、形態観察と分子系統解析の両結果で示した。本系統はトリポクラジウム属の主要な宿主でもあり、今後、Malacodermei節とトリポクラジウム属との共進化について詳しい解析を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
トリポクラジウム属の発生時期である6月から9月にかけて育児休業したため、野外採集の機会が減少したが、国内各所の愛好家の協力を得て十分にサンプルを得ることができ、分類学的検討および分離培養方法の検討を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に採集できたのは本州のサンプルが主で、北海道や九州以南のサンプルが少ない状況にあるため、調査範囲を広げて、国内のトリポクラジウム属種の網羅的な収集を目指す。モノグラフ作成に向け、それぞれの種について、培養株と形態データを揃える。
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Causes of Carryover |
初年度は助成額全額を物品費にあて、旅費は他予算から支出する予定であった。しかし、野外調査の適期に育児休業を行ったため野外調査が実施できず、調査不足分を補うために次年度以降の遠距離出張(次年度は他予算から支出できないため科研費から支出する必要がある)の回数を増やす必要が生じた。一方、初年度の物品費の大部分は高額の実体顕微鏡購入に用いる予定であったが、代用できる機種があったこと、上記の遠距離出張の必要性を考慮し、購入を見送った結果、次年度使用額が生じた。この次年度使用額を、上述の遠距離出張費用にあてる予定である。
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