2022 Fiscal Year Research-status Report
相利共生系における水平伝達型から垂直伝達型に至る進化過程の理論的解明
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22K15185
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
内海 邑 日本大学, 医学部, 助教 (30827887)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 相利共生 / オルガネラ化 / 垂直伝達 / 水平伝達 / 進化ゲーム理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、相利関係が共生者選択によって維持される水平伝達型から、垂直伝達自体によって維持される垂直伝達型への進化的な移行過程を明らかにすることである。そのために、水平伝達と垂直伝達が混在した下での、宿主による共生者選択と、共生者による協力の共進化モデルを構築した。このモデルを縮約し、どのような条件で水平伝達型から垂直伝達型へ移行できるのかを理論的に解析した。 その結果、まず共生者選択のやり方に依存して進化的帰結が異なることが明らかになった。具体的には共生前に共生者を選ぶのか、共生後に共生者との関係を打ち切るのかという違いによって、水平伝達型から垂直伝達型への移行途中で相利関係が崩壊してしまう場合があることが示された。また、共生を通した宿主の利益が決定的に重要で、それが小さい時に移行過程での崩壊が生じることも明らかになった。また、数理的には、このような相利系の崩壊がサドル-ノード分岐を通して生じることが分かった。 さらに、派生したモデルにおいて、適応進化によって絶滅に向かう進化的自殺と垂直伝達との関係も明らかになった。進化的自殺は寄生関係では難しく、相利関係で特異的に起こり得る。しかし、微生物と宿主の感染動態を表すSIモデルでは垂直伝達率がある閾値よりも高い場合にその関係が逆転し、相利関係で進化的自殺が起きなくなることが分かった。一方、サンゴ-褐虫藻のように宿主が共生系に絶対的に依存する場合や共生のない送粉系のような場合には、垂直伝達率が進化的自殺の可否に影響しないことも分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
縮約したモデルにおいて、垂直伝達率の変化と共進化動態の帰結について基本的な関係と、水平伝達型から垂直伝達型へ至るための定性的な条件が明らかにするという初年度の計画の通りに概ね進行しているため。また、初年度の計画にあった縮約のないフルモデルの解析はやや遅れているものの、次年度の計画にあった頻度動態モデルから個体群動態モデルへの拡張に関連し、進化的自殺と垂直伝達の関係を導くことができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、定性的に明らかになっている移行条件について、精緻化を目指し解析的な導出を試みるとともに、数値計算ベースのフルモデルの解析を進めている。今後はこれらの結果を比較し、より一般的な移行条件を明らかにしていく。また、現在同時進行している個体群動態モデルへの拡張に関連して、当初の計画通りに、垂直伝達の進化も考慮した解析を進めている。
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Causes of Carryover |
論文執筆が遅れ、年度内に予定していた英文校正や投稿が発生しなかったため未使用額が生じた。予定の論文は現在準備中であり、次年度でこの論文が準備出来次第、当初の予定通り、その英文校正などに当該未使用額を使用する予定である。
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