2023 Fiscal Year Research-status Report
慢性広域的神経活動記録による感覚・運動変換の神経メカニズムの解明
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22K15222
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
川端 政則 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (00907727)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 感覚・運動情報処理 / 大脳皮質 / Contrastive PCA / 知覚・認知 / Granger causality |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、視覚性二段階応答課題を遂行中の頭部固定下ラットの大脳皮質から単一ニューロンごとのスパイク活動を記録することで、感覚・運動変換の神経メカニズムを明らかにすることを目的とする。2023年度は2022年度に記録した実験データの解析を進めた。 視覚性二段階応答課題では、知覚閾値付近の強度の視覚刺激(中刺激、反応率50%程度)を提示し、刺激に応答したレバー引きを課す。物理的に全く同じ強度の視覚刺激であっても、脳の内部状態が時々刻々と変化しているため試行ごとに反応の有無は変化する。また、レバー軌道をよく観察したところ、反応した試行におけるレバー軌跡が試行ごとに異なっていることに気が付いた。さらに、反応率が30%程度の弱刺激と100%の強刺激でのレバー軌道もかなり異なっていることが観察された。そこで、Contrastive PCAを用いてセッションごとにレバー軌跡の特徴を捉えたPrincipal component(cPC1)を求めたところ、刺激強度とcPC1は相関していた。これはラットの知覚の強度がレバー軌跡に反映されていると考えられる。すなわち、レバー軌跡から試行ごとの知覚の強度を定量化できることが明らかとなった。 神経活動の解析では、刺激提示時やレバー引き開始時のLocal field potential(LFP)を用いて同時記録した領域間でのGranger causality(GC)を求めることで、感覚・運動情報の流れを解析した。感覚情報に関連した成分は、V1からV2・PPCへフィードフォワードに流れる経路とPPCからV1・V2へフィードバックしつつM2へも流れる経路の2つが見つかった。運動情報に関連した成分は、M1からV1・V2へフィードバックする経路が見つかった。これらの結果から、感覚・運動情報は前頭葉と後頭葉の間でループ状に循環していることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
試行ごとのレバー軌跡の違いを定量化する手法としてContrastive PCAが有用であることを見出し、試行ごとのレバー軌跡から知覚の強度を定量化することが可能となった。Contrastive PCAは、指定した2つのデータの距離を最大化するPrincipal componentを求めるPCAである(A Abid et al., Nat Comm, 2018)。ここでは弱刺激試行における平均レバー軌跡と強刺激試行における平均レバー軌跡を指定してcPC1を求めた。個体ごと・セッションごとにレバー軌跡は変動するため、cPC1はセッションごとに求めた。大部分のセッションにおいて刺激強度とcPC1は有意に相関していたことから、ラットは刺激強度に依存してレバーの引き方を変えていることが明らかとなった。試行間でのレバー軌跡の相関構造調べたところ、cPC1の値が近いほど相関が高く、離散的なクラスター構造とはなっていなかった。一方、セッション間での弱刺激試行と強刺激試行における平均レバー軌跡の相関を調べたところ、個体内では相関が高く、個体間では大きく2つのクラスターに分類されることが明らかとなった。このクラスター1と2ではレバー軌跡が大きく異なるため、特定の特徴量を基にした定量化手法では刺激強度と相関した成分を定量化できなかったと推測される。 感覚・運動情報の流れの解析では、同時記録した脳領域間での課題関連LFPのGCを求めることで定量化を行った。本研究の実験では同時に2~3本の電極をランダムな大脳皮質領域に刺入しているため、全セッションをつなぎ合わせることで疑似的に大規模な大脳皮質領域間ネットワークを抽出することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
試行ごとに求めたcPC1と相関した神経活動を示す脳領域を探索することで、知覚や感覚・運動変換に関連した領域を同定する。ただし、cPC1はレバー軌跡の違いを示す値であるため、運動関連領域であれば相関することが想定される。ここでは視覚刺激の感覚情報からcPC1に対応したレバー引き運動への変換に関わる領域をターゲットとするため、予め別の指標で視覚関連性を定量化した上で、さらにcPC1とも相関しているニューロンを探索する必要がある。そのため、まずはSupport vector machineなどを用いたデコーディングによって各ニューロンの感覚関連性・運動関連性を定量化し、その次に感覚関連ニューロンの中でcPC1と相関した活動を示すニューロンを探索する。 GCによる情報の流れの解析では、現在のところ全周波数帯域の成分を用いている。2022年度の解析からV1・V2には興奮性と抑制性の成分を交互に持った振動性ニューロンが多く存在することが明らかになっており、感覚関連LFPと運動関連LFPでは周波数が異なることが示唆されている。そこで今後は感覚・運動情報に関連したGCの周波数成分を調べることで、スパイク活動との対応関係を探る。同時記録した別々の脳領域に位置するニューロン間の相関関係を調べることで情報の流れを定量化することができれば理想的だが、現実には位置が大きく離れたニューロン間で相関関係が見つかることはほぼない。そのためここでは、LFPを仲介としてスパイクレベルでの情報の流れを定量化することを目指す。
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Causes of Carryover |
2023年度はデータ解析が主であり、実験用に購入した物品は次年度以降の研究の予備実験用であったため次年度使用額が生じた。2024年度はデータ解析を進めて論文の出版を目指すため、次年度使用額は出版費用や学会参加費に使用する予定である。
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