2022 Fiscal Year Research-status Report
低分子量と熱力学的安定性を両立したNIR-II色素の創製と蛍光プローブへの応用
Project/Area Number |
22K15259
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
谷岡 卓 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 助教 (40846359)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 近赤外蛍光 |
Outline of Annual Research Achievements |
波長 1000 nm ~ 1400 nm の第 2 近赤外光学窓(NIR-II)領域は、生体組織による光の吸収や散乱、自家蛍光の影響が非常に少ないため、色素を利用した生体深部の蛍光イメージングに適しており近年注目されている。一方で、NIR-II 領域で光吸収や蛍光を示す NIR-II 色素は、大きな分子サイズや低い熱力学的安定性などの問題を有している。本研究は,申請者オリジナルの「架橋キサンテン色素」をプラットフォームとし、小さな分子サイズと熱力学的安定を両立した NIR-II 色素をデザイン・創製することを目的とする。そして、創出した色素の蛍光プローブとしての有用性を明らかにすることを2つ目の目的とする。 上記の研究目的を達成するため、昨年度は低分子量と熱力学的安定性を両立したNIR-II色素の創出に取り組んだ。以下に得られた3つの成果について示す。① まず、NIR-II 候補化合物の選定のため、フルオレセイン型、ロドール型、ローダミン型の架橋キサンテン系色素の合成に取り組んだ。その結果、いずれの架橋キサンテン色素誘導体の合成にも成功したことに加え、色素の精製方法を見直すことで、ワンポットでの合成方法を確立した。② 続いて、架橋キサンテン系色素の光物性検討を行った結果、フルオレセイン型色素が最も長波長の蛍光発光を示すことがわかった。さらに興味深いことに、ロドール型架橋キサンテン系色素の蛍光発光に対する溶媒効果を精査した結果、アミン部位に電子供与性アリール基を持つ誘導体において、無極性溶媒中でのみ選択的に発光を示す新奇現象を見出した。③ 架橋キサンテン系色素の熱力学的安定性に関する検討を行った結果、分子内の適切な位置に水酸基を有していることが、色素安定性を大幅に改善することがわかった。一方で、水酸基導入は蛍光波長も大きく変化させてしまうことも明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、計画していた架橋キサンテン系色素の創出と、物性評価ができたことに加え、色素の熱力学的安定性を改善する置換基効果についても明らかにした。さらに架橋ロドールの「無極性選択蛍光」の発見により、架橋キサンテン系色素が蛍光プローブとしての利用にとどまらず、セキュリティインクや化学発光センサーとしての利用も可能であることがわかった。一方で、NIR-II領域の色素の安定性には改善の余地があり、本年度も継続的な色素改良が必要である。以上の点から、当初の計画通りの進捗状況であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は①架橋キサンテン系色素を分子プラットフォームとしたNIR-II色素の継続的開発、および②架橋キサンテン系色素の蛍光プローブとしての有用性の検証、の2点に重点を置いた研究を行う予定である。具体的な方策は以下の通りである。 ① について、昨年度の研究成果から、フルオレセイン型色素誘導体が最も有望であることがわかっている。そこで、HOMO-LUMOの分子軌道エネルギーのチューニング、またはπ共役系の拡張による、NIR-II 色素の継続的開発を行う。また同時に、色素に適切な置換基を導入することで熱力学的な安定化も試みる。 ②について、構造修飾箇所が多い架橋フルオレセイン色素誘導体、および、無極性選択蛍光を示す架橋ロドール色素誘導体について、蛍光プローブ化を志向した研究を行う。具体的な検出刺激としては、イオン、酸化還元剤、極性環境などを対象とする。
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Causes of Carryover |
昨年度研究を進めるにあたり、より長波長・高安定性のNIR-II色素を開発するために、本年度も継続的な色素改良が必要であった。そこで、物品購入費やその他(計測機器使用費)の一部を本年度分に移行したため、上記の次年度使用額が生じた。したがって、上記の次年度使用額に関しては本年度の研究計画とは別に色素開発のための物品費およびその他(機器使用費)として使用する予定である。
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