2023 Fiscal Year Research-status Report
尿中キヌレニン経路代謝物に着目した薬剤性間質性肺疾患の新規バイオマーカーの開発
Project/Area Number |
22K15289
|
Research Institution | National Institute of Health Sciences |
Principal Investigator |
孫 雨晨 国立医薬品食品衛生研究所, 医薬安全科学部, 研究員 (60818904)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 薬剤性間質性肺炎 / キヌレニン代謝経路 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では薬剤性間質性肺炎(DILD)に対する非侵襲的な新規バイオマーカー分子の同定を目的として、尿中のキヌレニン経路代謝物に着目したバイオマーカー開発を実施している。 本年度は、肺の細胞におけるキヌレニン経路活性化の生理的意義の解明に向けて、先行論文でキヌレニン経路の律速代謝酵素であるIDO1の発現が炎症で誘導されることを報告した肺毛細血管内皮細胞を用いて、キヌレニンを曝露した際に発現変動する遺伝子をRNAシークエンス解析により網羅的に解析した。その結果、グルタチオン合成に関わるトランスポーターであるSLC7A11の発現がキヌレニン曝露により有意に上昇することが明らかとなった。また、qPCRを用いた検証試験では、当該トランスポーターの上昇に加え、複数の抗酸化ストレス遺伝子の発現がキヌレニン曝露により上昇することを見出した。さらに、キヌレニン曝露により細胞内の総グルタチオン量が増加する結果を得た。次に、キヌレニンについて、酸化ストレス関連細胞死の一種であるフェロトーシスに対する保護効果を検証するために、フェロトーシス誘発剤であるエラスチン(SLC7A11阻害剤)とキヌレニンを共曝露した際の細胞死を解析した。その結果、キヌレニン曝露によりエラスチン誘発性フェロプトーシスを抑制可能であることが示された。これら試験に加え、細胞フリーアッセイ系を用いて、キヌレニン経路代謝物の一部が、ヒドロキシラジカルの除去能を有することを見出した。以上、本年度の検討により、薬剤性間質性肺炎時に上昇するキヌレニン経路代謝物は、グルタチオン合成の促進や抗酸化関連遺伝子の発現誘導、さらに当該化合物自身のラジカル除去能によりフェロプトーシスの発生を抑制し、細胞保護効果を有する可能性が考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究の結果、これまで薬剤性間質性肺炎では着目されてこなかったキヌレニン経路の抗酸化活性による生体防御機構に対する新規データを得ることができ、それら代謝物の薬剤性間質性肺炎における生理的役割の解明に一歩近づくことができたため。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は、in vitro試験で見出されたキヌレニン代謝を介した酸化ストレス防御機構のさらなる詳細の解析のために、間質性肺炎モデルラットを用いた遺伝子発現解析や、代謝物測定解析を実施する予定である。
|
Causes of Carryover |
令和5年度の研究では、in vitro試験を中心に研究を実施し、当初予定していた間質性肺炎モデル動物を用いた遺伝子発現解析、代謝物測定、及び病理組織学的評価の実施を令和6年度に延期したため、これら試験の実施のための繰越金が発生した。次年度は、上述の動物試験に関連する試験研究に繰越金を充てる予定である。また、これまでに得られている研究成果の論文化にための投稿料にも繰越金を利用する予定である。
|