2022 Fiscal Year Research-status Report
肺がん転移時の間葉上皮転換過程における薬剤耐性の変動とそのメカニズムの解明
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22K15345
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Research Institution | Takasaki University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
張 協義 高崎健康福祉大学, 薬学部, 博士研究員 (60878510)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 上皮間葉転換 / 間葉上皮転換 / 薬物排出系トランスポーター / 転写調節因子 / 足場タンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
がん転移は原発巣の上皮系細胞が間葉系細胞へ形質転換上皮間葉転換(EMT)する現象と、その間葉系細胞が転移先の上皮系細胞に戻る現象間葉上皮転換(MET)の2段階のプロセスにより成立する。本研究では、EMTの誘導に伴って亢進したがん細胞の排出系トランスポーター(TP)の機能が、METを誘導したときにも保持されているのか、あるいは変動するのかを明らかにすること、およびそのメカニズムを解明し、がん細胞の転移・浸潤時のEMT/METの一連の過程における薬剤耐性の変動を明らかにすることを目的とする。さらに、MET誘導時の排出系TPの機能の保持や変動がin vivoにおいても再現されるか否か、肺がん細胞をリンパ系に転移させた動物モデルを用いて検討する。 我々はすでに、EMTを惹起した肺がん細胞においては薬物排出TPの活性が上昇し、がん細胞の薬剤耐性が亢進することを明らかにしている。転写調節因子SnailによるEMT肺がん細胞におけるP-糖タンパク質(P-gp)が活性化され、それは足場タンパク質Moesin(Msn)によって制御されている可能性が示唆された。本研究では、肺がん細胞をデキサメタゾン (DEX) で処理してMETを誘導し、Ezrin(Ezr)とP-gpのmRNA発現量および膜タンパク質発現量は有意に増加した。P-gp基質であるRhodamine123 (Rho123) を用いて活性、Paclitaxelを用いて毒性を評価した。DEXによるMET肺がん細胞におけるP-gpの活性が上昇し、それはEzrによって制御されている可能性が示唆された。EMT肺がん細胞におけるP-gpの活性化は、Msnによって制御され、MET肺がん細胞におけるP-gpの膜発現はEzrによって制御されている可能性が示唆された。P-gpの発現および活性の制御メカニズムは、細胞の状態によって異なることが考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は当初の計画通り、「培養細胞系を用いたin vitroの検討においては、まず、MET誘導因子(ラパチニブやXAV939、デキサメタゾン、OVOL2、PiggyBac System)をHCC827細胞に添加・導入して、上皮系マーカー(E-cadherin、occludin、claudin-1)の増加および間葉系マーカー(vimentinなど)の減少を観察することにより、METを確認する。(研究実施計画記載)」した。我々は、DEXを用いてHCC827肺がん細胞株を処理し、 上皮マーカーE-cadherinが上昇し、間葉マーカーVimentinが低下し、METの誘導が認められた。 「METの状態における排出系TP (P-gp、MRPs、BCRP) のmRNAおよび細胞内総タンパク発現量、活性を測定する。細胞内総タンパク量が変動しないにも関わらず活性が上昇する場合は、TPの細胞膜画分におけるタンパク量および足場タンパクのmRNA量を測定する(研究実施計画記載)」した。DEXを処理したとき、EzrおよびP-gpのmRNA量はコントロールに比べて有意に増加した。RdxおよびMsnのmRNAの発現量には統計学的差異が認められなかった。WBの結果によると、EzrとP-gpのタンパク質膜発現量が有意に増加した。さらに、P-gpの機能を評価した。P-gpの蛍光基質Rho123のEfflux実験および基質Paclitaxel添加した細胞生存率実験を行った。METを誘導した肺がん細胞のRho123排出率がコントロールと比べて有意に増加した。また、Paclitaxelを加えた時、METを誘導した細胞の細胞生存率はコントロールと比べて有意に増加した。このことから、肺がん細胞におけるP-gpの機能はDEXによって増強された可能性が示唆された。以上の結果を踏まえて、現在、論文を投稿準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
すでに、SnailによるEMT肺がん細胞におけるP-gpが活性化され、それはMsnによって制御されている可能性が示唆された。本研究では、DEXがMETを誘導することができるを確認された。さらに、肺がんにおけるDEX→Ezr→P-gp連関系の存在を明らかにした。DEXによるMET肺がん細胞におけるP-gpの発現と活性が上昇し、それはEzrによって制御されている可能性が示唆された。 今後、「あらかじめ転写調節因子SnailのプラスミドDNAを導入してEMTを誘導したHCC827細胞を用いて、METも誘導しP-gpの発現および機能の評価を行う。(研究計画調書記載)」の解析を進める。具体的には、SnailまたはDEX、およびSnailとDEXを順番に導入したHCC827肺がん細胞を用いて、RT-PCRおよびWestern Blottingによって、mRNAおよび細胞膜上タンパク発現量(P-gp、ERMタンパク質)を測定する。さらに、P-gpの基質であるRho123およびPaclitaxelを用いて、細胞への薬物の取り込みを観察することにより、TPの活性の変動を確認する。また、細胞細胞生存率を測定する予定である。 一方、in vivoの検討においては、マウスの右腋窩線上の横隔膜・腋窩間胸壁に肺がん細胞を注入後、体重の減少を指標に最大10週間飼育観察し、リンパ節転移マウスモデルを作製する。使用するがん細胞としては、in vitroの試験との一貫性を担保するためHCC827細胞を用いるが、この細胞で転移が確認できない場合は、転移モデル作製に実績のあるH226またはH520細胞を用いて検討する。この動物から採取した原発巣および転移巣の細胞を必要に応じて培養し、EMTおよびMETに関わるマーカーの発現の差を確認するとともに、排出系TPのmRNA量、タンパク量、活性を測定する。
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Research Products
(2 results)