2022 Fiscal Year Research-status Report
日米における非アルコール性脂肪性肝炎のゲノム網羅的DNAメチル化解析
Project/Area Number |
22K15415
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
藏本 純子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (60571677)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 非アルコール性脂肪性肝炎 / 非アルコール性脂肪性肝炎由来肝細胞がん / 非アルコール性脂肪性肝炎由来肝発がん / DNAメチル化異常 / メチローム解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
①対象症例:先行研究で,日本人の非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)症例91例, NASH由来肝細胞がん症例22例,正常肝組織36検体を得ていた.米国のユタ大学ハンツマンがん研究所より, 米国人のNASH症例20例, NASH由来肝細胞がん症例11例のFFPE組織の供与を受けた. ②対象症例のメチローム解析:日本人の症例については,凍結組織切片からフェノール・クロロホルム法と透析によりDNAを抽出し,Infinium Methylation450 BeadChip (Illumina社)によりメチローム解析をおこなっていた.米国のFFPE組織については,NASH症例の肝組織, NASH由来肝細胞がん症例のがん組織および非がん肝組織からGeneRead DNA FFPE Kit(QIAGEN社)を用いてgenomic DNAを抽出し, 日本人同様にメチローム解析をおこなった. ③解析結果:すでに取得済の日本のメチロームデータと②で新たに得られた米国のメチロームデータを主成分分析に供した. その結果, NASHは正常肝組織と明らかに異なるDNAメチル化プロファイルを示し, NASHの中でも米国人検体と日本人検体は異なる傾向が伺えた. そこで, NASHにおけるDNAメチル化異常がNASH由来肝細胞がんに継承され、そのDNAメチル化異常が発現異常に帰結する可能性のある候補がん関連遺伝子を, 日米の症例でそれぞれ同定した. 日米に共通してB3GNT3・MOSC1・FUT4遺伝子が同定され, これらの遺伝子のDNAメチル化異常のNASH由来肝発がん過程への普遍的な寄与が示唆された. 他方で, 日米間で異なるDNAメチル化状態を示すNASH由来肝細胞がん関連遺伝子が複数同定され, 人種・生活習慣の相違に基づくと見られる, NASH由来肝細胞がん発生過程の分子基盤の多様性が明らかになった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初, 一年目の研究計画として, 日米のコホート検体のメチロームデータを取得し, 主成分分析ならびに階層的クラスタリング等に供した後, NASH検体のDNAメチル化プロファイルに人種に基づく差異があるか明らかにすること, 日本人のNASH検体に特異的なDNAメチル化異常を示すCpG部位と,米国人検体(日本人以外の人種)のNASH検体に特異的なDNAメチル化異常を示すCpG部位をそれぞれ同定することを目指していた. 実際は, 予定していた研究計画よりもさらに解析が進み, 日米に共通する候補がん関連遺伝子としてB3GNT3・MOSC1・FUT4の3遺伝子が同定された. 他方で, 日米間で異なるDNAメチル化状態を示すNASH由来肝細胞がん関連遺伝子が複数同定され, 人種・生活習慣の相違に基づくと見られる, NASH由来肝細胞がん発生過程の分子基盤の多様性が明らかになった.
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Strategy for Future Research Activity |
日米に共通するNASH由来肝細胞がんの候補がん関連遺伝子であるB3GNT3・MOSC1・FUT4遺伝子の他, 日米で異なるNASH由来肝細胞がんの候補がん関連遺伝子のうち代表的な遺伝子についてのmRNA発現を, 正常肝組織,NASH,NASH由来肝細胞がん組織を用いて定量し, DNAメチル化異常が発現異常に帰結する遺伝子を網羅的に明らかにする. 次に, ヒト肝がん細胞株, ヒト不死化肝細胞株において, 細胞生存能・増殖能・アポトーシス・接着能・浸潤能等,当該遺伝子の想定される機能に適したアッセイをin vitro で実施して, 候補分子が腫瘍抑制性あるいは腫瘍形成性の機能を有することを確認する. さらに,ユタ大学ハンツマンがん研究所の協力を得,NASH組織およびNASH由来肝細胞がん組織から,当該遺伝子によって発現制御を受ける蛋白およびその蛋白の代謝関連蛋白の発現量の解析をおこない,DNAメチル化状態やmRNA量との相関性を確認する.これら当該分子のDNAメチル化状態やmRNA発現・蛋白発現と,NASHの程度・がんの悪性度・症例の予後との間の相関を検討して,多段階発がんの早期に起こりがんの発生に寄与する分子と,悪性進展に寄与する分子を同定し, NASH由来肝細胞がんの発生機序の理解を深める.さらに, 個々の候補がん関連遺伝子が NASH 由来肝細胞がんの創薬標的候補となるか, その DNAメチル化率が NASH 由来肝細胞がんの発生リスクや予後を診断するバイオマーカーとなるかについての検討を継続する予定である.
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Causes of Carryover |
一年目の計画では, 米国より供与を受けたFFPE組織検体からの核酸抽出試薬, バイサルファイト変換キット, Infiniumアッセイ実験試薬などの消耗品費への支出が見込まれていたが, 実際のところ, これらの消耗品については申請者が所属する研究室内で保管していた在庫を当初使用していたため, 予定していたよりも支出額が減少した. また, 研究計画より解析が進展したものの 進展部分については統計解析が主体であったため, その部分に関する支出額は生じなかった. 次年度では, 細胞株を用いた実験が主体となるため, 細胞培養試薬, 細胞培養器具, siRNA関連試薬の購入が中心となる見込みであるが, 次年度使用額も含めて適切に予算を使用する予定でいる.
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