2022 Fiscal Year Research-status Report
Elucidation of Signaling Mechanisms Involved in Human Regulatory T Cell Differentiation by Multi-omics Analysis
Project/Area Number |
22K15493
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
竹島 雄介 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 特任助教 (70893288)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | マルチオミクス解析 / シングルセル解析 / 制御性T細胞 / 免疫学 |
Outline of Annual Research Achievements |
制御性T細胞(Treg)は免疫抑制機能に特化したT細胞集団で、異常・過剰な免疫応答を抑制し、免疫寛容、免疫恒常性の維持に重要な役割を果たす。Tregは自己免疫や炎症性疾患の抑制だけでなく、臓器移植による拒絶拒否にも重要で、逆にTreg機能の減弱によりがん免疫の強化が可能である。ヒトCD4陽性T細胞は強いT細胞受容体刺激を受けるとFOXP3を一時的に発現するが安定せず、機能的に安定なTregの効率的な誘導が課題である。 本研究ではCRISPR-Cas9による目標遺伝子のノックアウトの影響に関して、単一細胞レベルでゲノムワイドなオープンクロマチン解析、網羅的遺伝子発現解析、細胞表面・細胞内タンパク質の定量を組み合わせた大規模スクリーニングを独自に開発することで、多層的データの統合解析によりTreg分化誘導の際に生じる生物学的応答シグナル伝達ネットワークを解明し、ヒトにおけるTreg分化誘導過程において核となる分子を探索し、分化誘導に関与する正の制御因子と負の制御因子を同定することを目的としている。 今年度はヒトCD4陽性ナイーブT細胞に対して電気穿孔法を用いてCRISPR-Cas9によるノックアウトを行い、Treg誘導刺激を加えた後に細胞内蛋白染色を伴うCITE-seq、ASAP-seqを行い、良質なシークエンス結果を回収した。 本研究でTreg誘導に関わる制御因子を同定することで、誘導に対して正の制御を行うことで安定して効率的な誘導性Tregを分化させることができ、自己由来の末梢性T細胞から誘導Tregを産生することで自己免疫疾患に臨床応用することが可能となる。逆に、負の制御を行うことで自己免疫寛容を抑制し悪性腫瘍に対する治療応用が可能となる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒトCD4陽性ナイーブT細胞に対して電気穿孔法を用いてCRISPR-Cas9によるノックアウトを行い、Treg誘導刺激を加えた後に細胞内蛋白染色を伴うCITE-seq、ASAP-seqを行い、厳格なQuality Controlを施行後に約25万細胞にも及ぶ良質なシングルセル解析のアウトプットを得た。また、細胞内染色タンパク質の発現が同タンパク質をコードする遺伝子発現やオープンクロマチン情報と良好な相関を示すだけではなく、ASAP-seqと細胞内蛋白染色を伴うCITE-seqで良好な相関を示すことを確認し、本手法が良好に機能していることを確認した。 現在、シングルセルマルチオミクスに対するin silico解析を行っている。すでに獲得済みのアウトプットに対してin silicoで各遺伝子のノックアウトによる摂動をコントロールサンプルと比較解析するパイプラインを独自に作成している。発現変動解析・共発現解析・ネットワーク解析・クラスター解析・系統解析などをエピゲノム、トランスクリプトーム、プロテオームに関して別途に行うと共に、三層における摂動を結合させて多面的に細胞分化過程におけるシグナル伝達機構の詳細の解明を試みることで、特徴的な遺伝子制御ネットワーク(GRN; Gene Regulatory Network)の検出に挑戦している。また、オープンクロマチン情報から各転写因子の結合性やモチーフ解析を行うことで、目標遺伝子と転写因子との関連を詳細に評価している。 以上の経過を鑑みて、研究計画はおおむね順調に進展しているものと考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
すでにシングルセルレベルでオープンクロマチン情報や遺伝子発現情報と共に、細胞表面蛋白ならびに細胞内蛋白を検出することに精度よく成功しており、この技術を最大限に活用するためにCRISPR screenをin silicoで行うパイプラインの開発を行いたいと考えている。本手法を確立することで、多岐にわたるCRISPR screenを事前に選択肢を狭めることなく一括で行うことができるとともに、既存の手法で解析可能な影響因子の同定だけにとどまらず、トランスクリプトームレベルならびにエピゲノムレベルにどのような変化をもたらすかをアンバイアスにゲノムワイドな探索が可能となることが期待され、影響因子の探索過程ならびにネットワークの詳述において大幅な技術革新がもたらされうると考える。 また、本手法で同定したTreg分化誘導におけるネットワークのハブとなる因子の検証解析の追加を検討している。同定したTreg分化誘導における制御因子をノックアウトした細胞を用いて、エフェクターT細胞との共培養などにより抑制能に関する機能解析で検証を行いたいと考えている。 これらにより、Treg誘導における正の制御因子と負の制御因子の同定ならびにTreg誘導刺激において各因子が果たす転写・翻訳制御の役割についての詳細を解明し、ヒトCD4陽性ナイーブT細胞におけるTreg誘導刺激に対する生物学的応答シグナル伝達ネットワークの全体像を明らかにしていくことが可能であると考えている。
|
Causes of Carryover |
当初計画のin silicoによるシングルセル解析に加えて、in vivoならびにin vitroでの機能解析による実証実験を追加することで、本研究で得られた知見をより頑健なものにすることができることが期待される。また、当初の予定に追加してスーパーコンピューターのGPUの契約を行い計算機能力を上昇させることで、in silicoでの解析をより迅速に行うことができると期待される。
|