2023 Fiscal Year Annual Research Report
呼吸鎖複合体Iによるヒストン修飾制御を介した癌増殖メカニズムの解明と臨床的意義
Project/Area Number |
22K15516
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Research Institution | Showa University |
Principal Investigator |
日暮 大渡 昭和大学, 薬学部, 助教 (50882487)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ミトコンドリア / 呼吸鎖複合体I / NAD+ / p21Cip1 / SIRT3 / SIRT7 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、癌細胞の増殖におけるミトコンドリア呼吸鎖機能のATP産生以外の非エネルギー的な役割とその重要性を示すことを目的とし、呼吸鎖複合体のうち、複合体IのNADH脱水素酵素によるNAD+の産生に着目した検討を行った。予備的検討より、複合体I機能を阻害してNAD+レベルを低下させたところ、細胞周期阻害因子p21Cip1が発現誘導された。NAD+は様々な酵素の補酵素として働くが、p21Cip1プロモーター領域のヒストンH3リジン残基のアセチル化が亢進していたことから、本研究ではNAD+依存性脱アセチル化酵素であるSIRTsに注目した。 p21Cip1の発現制御に関わるSIRTsを同定するため、乳癌由来細胞株および肝細胞癌由来細胞株を用いてSIRT1-7をノックダウンし、スクリーニングを行ったところ、多くの細胞で共通してSIRT7がp21Cip1の転写を抑制的に制御していることが示唆された。クロマチン免疫沈降を行ったところ、複合体I機能阻害時にはp21Cip1の転写開始点近傍のH3K18のアセチル化が亢進し、この亢進はSIRT7の過剰発現により抑制された。また、上記のスクリーニングで、SIRT3のノックダウン時に、タンパク質レベルでp21Cip1が増加する結果が得られた。さらにBONCAT法により、新生p21Cip1タンパク質が、複合体I機能阻害時およびSIRT3ノックダウン時に増加する結果が得られたことから、SIRT3がp21Cip1タンパク質の翻訳過程の抑制的制御に関わることがわかった。 以上のことから、癌細胞の増殖を支えるミトコンドリア代謝と増殖カップリング機構としてNAD+-SIRT3/7-p21Cip1経路の存在を提唱する。この経路は癌細胞の増殖に必須であり、NADH脱水素酵素ならびにSIRT3/7は、抗悪性腫瘍薬の標的となりうることが示された。
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