2022 Fiscal Year Research-status Report
リン酸化プロテオミクスを活用した体内循環がん細胞塊の遠隔転移確立機序の解明
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22K15534
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Research Institution | Fukushima Medical University |
Principal Investigator |
佐藤 友美 福島県立医科大学, 医学部, 助教 (10333353)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | プロテオミクス / 転移 / スフェロイド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では遠隔転移の源となる体内循環がん細胞塊(CTCクラスター)のモデルとして、類似の細胞極性状態を維持した構造をもつ腫瘍由来初代培養スフェロイド(CTOS)を用いて、転移における接着確立過程に関わる分子およびシグナル伝達経路をプロテオミクス解析により明らかにすることを目指している。 大腸がん由来CTOSを浮遊培養状態からゲル包埋培養へ移行させ、細胞外マトリックスへの接着確立過程におけるタンパク質量とリン酸化状態の継時的な変動をプロテオミクスおよびリン酸化プロテオミクスにより検出した。プロテオミクス解析によりタンパク質量には大きな変動は見られなかったのに対し、リン酸化状態が2倍以上変動したサイトは同定リン酸化サイトの5.62%(13603 sites中764 sites)、リン酸化同定タンパク質の13.68%(3546タンパク質中485タンパク質)であり、リン酸化プロテオミクスによる解析は細胞内の微細な変化を鋭敏に捉えていることが明らかになった。 リン酸化変動タンパク質のin silico解析により、いくつかのkinaseが活性化していることが示唆されたことから、樹立細胞株を大量に培養して行っていた従来のリン酸化プロテオミクスと同様に、腫瘍組織から調整した少量の初代培養CTOSからでもシグナル解析に必要なリン酸化変動情報が得られることを明らかにした。 またがん細胞塊が細胞外基質に接触したことを最初に感知するCTCクラスターの表面分子を同定するために浮遊培養CTOSの表面タンパク質をビオチンラベルし精製濃縮する条件を検討し、表面タンパク質の精製濃縮を完了した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4度はプロテオーム解析によるデータ収集を中心に実施した。 浮遊培養CTOSをマトリゲル包埋培養へ移行した後、継時的にサンプルを回収して解析を行った。リン酸化プロテオミクスにより細胞外基質との接触後に生じる、リン酸化状態の変動を同定したが、これらの中から接着確立開始に寄与するシグナルを同定するためにゲル包埋後早期に変動するリン酸化変動タンパク質、kinaseなどに注目してin silicoにおける関連シグナルの探索解析を行なった。いくつかのkinaseの活性変動が示唆されると同時に、リン酸化変動タンパク質のオントロジー解析から細胞間接着関連分子に分類されるタンパク質のリン酸化変動が多数検出されていることが明らかになった。細胞間接着分子の変化は、CTCクラスターの接着確立時に観察される細胞塊表面のアピカル膜バリア崩壊過程に寄与する分子やシグナルを捉えている可能性が期待でき、プロテオミクス及びin silico解析による接着確立関連シグナル及び分子の探索には目処がたった。 ただ所属異動により、これまで使用してきたヒト由来CTOS株の継続使用が困難となったことから検証実験に用いる大腸がん由来CTOSを新たに入手あるいは樹立する必要性に迫られている。現在樹立CTOSの分譲による入手およびあらたな手術摘出腫瘍組織からの新規CTOS株樹立の両方向で準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度の解析結果から、細胞外マトリックス(ECM)接触後短時間で活性変動するkinaseおよび細胞間接着関連分子のリン酸化状態の変動を明らかにした。 令和5年度は、まず検証実験に使用可能な大腸がん由来CTOSをあらためて樹立することを優先して予定している。 その後in silico解析でECM接触により活性化が予測されたkinaseに対する阻害剤の接着阻害効果及びCTOS表面のアピカル膜崩壊を指標にした細胞間接着崩壊の評価実験で接着確立過程への寄与を検証することを予定している。その結果からCTCクラスターの接着確立過程を制御する分子シグナルを精査し同定することを目指す。 また細胞間接着関連分子のリン酸化は細胞膜近傍からの離脱を促す場合があるため、ECMとの接触により誘導される細胞間接着関連分子のリン酸化が細胞間接着崩壊およびがん細胞塊表面のアピカル膜バリア崩壊の誘導につながるか評価することを予定している。 また予測された接着関連シグナルに対してECM接触から最初にシグナルを伝達する受容体分子の同定を目指し、CTCクラスター表面に類似した構造と考えられる浮遊培養CTOS表面分子をビオチンラベル後、精製、濃縮した検体の網羅的プロテオミクス解析を行い関連受容体の探索を予定している。
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Causes of Carryover |
所属異動に伴いこれまで解析に使用してきたヒト腫瘍組織由来初代培養スフェロイド株を継続利用することが出来なくなった。 そのため樹立スフェロイド株の分譲あるいは新規手術摘出組織からの樹立により検証実験に用いるスフェロイド株を準備する必要が生じている。 手術摘出腫瘍組織は公のヒト組織バンクから入手することを予定しているが、審査及びMTA手続きなどが令和4年度内に完了せず支払いが次年度に持ち越されたため次年度使用額が生じた。
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