2023 Fiscal Year Research-status Report
リン酸化プロテオミクスを活用した体内循環がん細胞塊の遠隔転移確立機序の解明
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22K15534
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Research Institution | Fukushima Medical University |
Principal Investigator |
佐藤 友美 福島県立医科大学, 医学部, 助教 (10333353)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | がん転移 / スフェロイド / プロテオミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では遠隔転移の源となる体内循環がん細胞塊(CTCクラスター)のモデルとして、類似の細胞極性状態を維持している腫瘍由来初代培養スフェロイド(CTOS)を用いて、転移における接着確立過程に関わる分子およびシグナル伝達経路をプロテオミクス解析により明らかにすることを目指している。 これまでにリン酸化プロテオミクスデータのin silico解析により、浮遊培養CTOSを細胞外マトリックス(ECM)に包埋後1時間で活性状態が変動するキナーゼを予測した。今年度は活性化が予測されたキナーゼに対する阻害剤を用いてCTOSの接着確立阻害効果と増殖阻害効果を検証し、転移過程への寄与と転移先への生着阻害効果が期待できる阻害剤の探索を試みた。 上皮細胞由来の大腸がんCTOSは浮遊培養からECMゲルに包埋することでECMとの接着が確立すると細胞塊内のapico-basal極性の転換現象を示す。この現象を接着確立の指標として阻害剤の影響を評価した結果、ゲル包埋により活性化が予測されたRTK_XとKinase_Yの阻害剤で極性転換が阻害され、ECMとの接着阻害が示唆された。さらに両キナーゼ阻害剤はCTOSの増殖阻害効果も示した。樹立細胞株のデータベース解析より、RTK_X阻害剤の効果は大腸がんの治療標的であるEGFRに対する阻害剤よりも増殖阻害効果が高いことが示唆された。また興味深いことにEGFR阻害剤と異なり、腫瘍組織モデルであるゲル包埋培養だけでなく、CTCクラスターモデルである浮遊培養でもほぼ同等の増殖阻害効果を示し、腫瘍組織のみならず、体内循環がん細胞塊に対しても増殖阻害効果が期待されたことから、転移における体内循環過程の接着非依存的増殖、転移先接着過程、及び接着確立後の接着依存的増殖を阻害することで転移抑制の可能性をもつ化合物を同定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和5年度はin silico解析により活性化が予測されたキナーゼに対する評価実験のため、腫瘍組織バンクから提供を受けた凍結保存腫瘍組織からの新規樹立を試みたが免疫不全マウスへの生着が認められず、樹立済みCTOSの提供を受けて検証実験のための実験系を確立した。これにより検証実験の開始が遅れ、全体の進捗に遅れが生じた。 上皮細胞由来大腸がんCTOSを使用し、浮遊培養からゲル包埋培養移行に伴い生じるapico-basal極性転換現象をECMへの接着確立の指標として、ゲル包埋1時間で活性化が予測されたRTK 3分子、 RTKシグナルの下流に位置するKinase_Yに対する阻害剤の効果を評価した。その結果、極性転換阻害効果を示すRTK_X阻害剤とKinase_Y阻害剤を同定した。 RTK_X阻害剤について特異性や作用機序の異なる複数の化合物を評価し、極性転換阻害効果を示す阻害剤1つを同定した。 両キナーゼ阻害剤について、浮遊培養、ゲル包埋培養の両条件でCTOS増殖阻害効果を評価し、RTK_X阻害剤、 Kinase_Y阻害剤共に増殖阻害効果を認めた。さらに極性転換阻害能を持つRTK_X阻害剤は両培養条件で同等の増殖阻害効果を示し、極性転換現象を阻害しない阻害剤は浮遊培養条件での増殖阻害効果が低い結果を得たことから、ECMへの接着確立に伴う極性転換現象を阻害できる化合物は浮遊状態であるCTCクラスターに対しても増殖阻害効果を示す可能性が示唆され、転移過程解明に向けて更なる解析を進める標的RTKの同定と機能阻害化合物を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
R5年度にin vitro解析で同定した浮遊培養、ECMとの接着確立、ゲル包埋培養の全ての過程に対して阻害効果を示したRTK_X阻害剤についてin vivo転移確立モデルを用いた検証を行うことで体内における転移抑制効果を評価し、論文化を進める。 阻害効果が認められているRTK_Xの浮遊培養CTOS内での局在はbasolateralと考えられることから、浮遊CTOS表面のapical膜分子とECMとの接触によりRTK_X自体のリガンド結合によるcanonicalな活性化が生じる可能性は低いと考えられる。リン酸化プロテオミクスの結果から浮遊培養CTOS表面のapical 膜局在分子からRTK_X活性化を誘導する可能性があるシグナル経路を探索すると共に、上流候補分子の阻害剤処理によりゲル包埋過程で誘導されるRTK_X活性化に伴うリン酸化変動を検証することで上流シグナルの同定を目指す。 さらに現在大腸がんの治療標的分子とされているEGFRの阻害は、KRAS遺伝子の変異状態によって効果に違いが生じることが知られている。今回同定したRTK_XとKinase_Yはがん細胞の質的な違いではなく接着確立過程に寄与するシグナルを標的としているためKRASの変異状態による影響を受けない可能性があるためKRAS野生型と変異型のCTOSに対する阻害効果を比較検討する。
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Causes of Carryover |
研究遂行にあたり必要となる阻害剤や抗体などの購入に必要な資金が不足したことにより、年度末にはいったん実験を止める必要が生じた。そのため残額を次年度繰越として必要試薬の購入に充てることにしたため次年度使用額が生じた。
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