2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K15598
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Research Institution | National Institute of Infectious Diseases |
Principal Investigator |
田部 亜季 国立感染症研究所, エイズ研究センター, 研究員 (60786367)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 成人T細胞白血病リンパ腫 / ATL / HTLV-1 / 抗体 / 抗体薬物複合体 |
Outline of Annual Research Achievements |
成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)はHTLV-1の長期潜伏感染を原因とする非常に予後不良な末梢性T細胞腫瘍である。難治性の血液悪性腫瘍であるATLは、有効な治療法がなく、造血幹細胞移植は長期生存が得られる可能性を持つ治療法であるが、疾患年齢の発症中央値が65歳を超えているため、多くの高齢者は選択が難しい治療法となっている。その中で近年抗体薬物複合体(ADC)はATLを含むT細胞リンパ腫において有効性が示されており、ADCの新規治療薬としての可能性が示唆されている。またCAR-T療法、二重特異性抗体をはじめとする抗体を基盤とした治療薬が血液悪性腫瘍治療法として担う役割はより顕著なものとなってきている。 以上を背景として本研究では、ATLに対する新規治療法開発を目指し、抗体を用いた治療薬の研究及び治療薬開発の基礎となるHTLV-1タンパク質の構造解析を目的としている。当該年度は本研究で作製した抗体薬物複合体(ADC)について、マウスモデルを用いたADCの機能解析を重点的に行い、ADCの標的細胞特異的な細胞傷害性を確認することができた。ADCに化学修飾する新規薬剤の探索については、標的分子に対してADCに最適とされる非常に低濃度で活性を有する化合物候補の選択に難航しているが、引き続き継続していく。また今後の新たな抗体治療薬開発を目的としてIgGの単鎖抗体(scFv)化も行い、蛋白質としての発現精製に成功し、その物理化学的、生物学的機能解析を行なった。またHTLV-1蛋白質の構造解析については、結晶構造解析に向けてHTLV-1蛋白質の発現精製を試みている。本研究における研究成果は難治性血液悪性腫瘍であるATLに対する新規治療薬開発における初期段階に重要な基礎的知見を示すものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
HTLV-1の構造蛋白質につていは、初年度から次年度にかけて異動に伴い蛋白質の発現精製に関わる実験設備のセットアップに時間を要した影響があり、現在HTLV-1蛋白質の構造解析については構造解析を目指して発現精製を試みている段階ではあるが、ADCのマウスレベルでの機能解析では、ADCが腫瘍増殖抑制効果を示すことが明らかになった。また抗体を用いた新たな治療薬の基盤としてIgGの単鎖抗体化と発現精製、機能解析にも着手し、その研究成果について学会発表を行うことができ、プロジェクト全体としては概ね順調に進展していた。
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Strategy for Future Research Activity |
ADCに最適な細胞傷害性薬剤は非常に低濃度で十分な薬剤活性が必要であるため、現在は一般的に利用可能な候補化合物が限定されており、リンカーの設計も加味するとその開発は容易なものではない。我々が既に標的分子として着目している細胞内分子は存在するものの、ADCとして最適と思われるだけの高い活性を有する化合物候補の選別はこのような観点から非常に難しく難航しているが、引き続き探索を継続し候補となる化合物があればリンカーの負荷などを検討したい。 これまでの研究成果でマウスモデルにおけるADCの標的特異性や標的への傷害活性が評価できたため、今後は標的分子について、ADCの安全性をより詳細に検証するため、抗体の同一ファミリー分子やマウス抗原との交差反応性、またマウス組織やヒト正常組織への反応性について並行して解析を行う。抗体を基盤とする新たな治療薬開発も視野に入れて、scFvなどのエンジニアリング抗体についても物理化学的、生物学的機能解析に加え、治療薬としての基礎的知見を得るため細胞傷害活性を含む効果について解析を引き続き継続する。 HTLV-1の構造蛋白質については、初年度から次年度にかけて異動に伴い蛋白質の発現精製に関わる実験設備のセットアップに時間を要したため、全体のスケジュールに影響があったが現在HTLV-1蛋白質発現精製を試みている。構造解析のため、3量体化させるドメインなどを融合蛋白質として人工的に導入し、構造解析に向けて継続する。
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Causes of Carryover |
最終年度である令和6年度は研究成果を複数の国際学会等で発表予定であり、研究に用いる実験消耗品に加え、繰り越した助成金を国内・国外での学会成果発表や論文投稿などに使用する計画である。
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