2022 Fiscal Year Research-status Report
動物モデルを用いた後付け的知覚生成の神経基盤の解明
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22K15618
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石津 光太郎 東京大学, 定量生命科学研究所, 助教 (80880137)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 知覚生成 / 知覚意思決定 / オプトジェネティクス / マウス |
Outline of Annual Research Achievements |
脳は感覚器からのぼってきた感覚信号に対して、脳内の予測や事前知識を統合することで、もっともらしい知覚世界を生成している。そのため、知覚は感覚情報が脳内で統合処理されたあとに生じると考えられる一方で、われわれは外界からの刺激を時間遅れなく知覚している。これらを鑑みると、知覚自体が後付け的に起こる現象だと解釈できる。 本研究では、当初、計画していた計画していた連続聴錯覚タスクを実装したところ、動物の行動だけでは錯覚が生じているかの判別が困難であることが明確になった。そのため動物に課す行動課題を変更した。マウスには頭部拘束下で教示音の高低に応じて左右のスパウトを舐め分けさせるfrequency-discrimination taskを課した。この課題において、マウスは提示される音が高音カテゴリか、低音カテゴリに属するかを知覚し、さらに高音と低音のどちらの比率が高いかを判別しなくてはならない。加えて、左右のスパウトの報酬量に差を設けて報酬バイアスがマウスの選択に与える影響を観察した。さらに教示音に長短のパターンを織り混ぜることで教示音の弁別難易度を操作した。マウスは自分の選択に自信があるときは得られる報酬量に関わらず正しい解答をし、自信がなければ報酬量が多く設定された選択肢に偏った。これは、マウス脳内で感覚情報と報酬の事前知識との統合が行われている証左と考えられる。 次に,タスク中のマウスの聴覚野、前頭前野の神経活動をオプトジェネティクス技術によって任意のタイミングで抑制する実験を行った。前頭前野を活動抑制の対象に選んだ理由としては、事前の電気生理計測によって、マウスの知覚・意思決定プロセスにおいて、感覚情報と報酬の事前知識との統合が内側前頭前野で行われることが示唆されたためである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画していた連続聴錯覚タスクは、動物の行動だけでは錯覚が生じているかの判別が困難であることが明確になった。具体的には、連続聴錯覚を引き起こす音刺激①(連続的に周波数が変化する音刺激のうち一部区間を雑音と入れ替えた音刺激)を作成した。比較対象として、連続的に周波数が変化する音刺激の一部に雑音を重ねた音刺激②も作成した。連続聴錯覚は、雑音レベルが十分大きく、補完する区間が100ms程度以下の短さになった場合に生じる。当初、補完区間が長ければ連続聴錯覚は生じず①と②は異なる聞こえ(①は途切れて聞こえ、②は途切れず聞こえる)をし、補完する区間が短くなれば連続聴錯覚は生じて①と②の同様の聞こえ(①②どちらも途切れず聞こえる)をすることを想定していた。しかしながら、連続聴刺激が生じるほど雑音を大きい場合、補完する区間の長さに関わらず、①と②の聞こえが同様で判別できないことが明らかとなった。そのため、動物の行動から連続聴錯覚が生じているかどうかを判断できないため、前述したfrequency-discrimination taskに行動課題を変更した。 変更した行動課題自体は問題なくうまくいった。本研究の全体の計画では初年度に行動課題をクリアすることを想定していたため、計画の進行度としては予定通りのものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、実験系の構築および動物を用いた行動課題の実装、検証を完了した。また、オプトジェネティクスによる聴覚野、前頭前野の任意のタイミングでの抑制を行う実験系の構築も完了した。次年度から、タスク中に聴覚野、前頭前野の抑制するタイミングを工夫することで、知覚の生成から意思決定に至るどの過程にそれぞれの領野が寄与しているかを明らかにしていく。
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Causes of Carryover |
当初計画していた連続聴錯覚タスクを別タスクに変更したことに伴い、必要購入物品にも変更が生じたため。
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