2023 Fiscal Year Research-status Report
抑制性神経回路に着目した自閉スペクトラム症病態の解明と新たな治療戦略の探索
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22K15638
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
堀金 慎一郎 名古屋大学, 環境医学研究所, 講師 (60775906)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 神経発達障害 / 病態モデルマウス / Timothy症候群 / カルシウムシグナリング / L型カルシウムチャネル |
Outline of Annual Research Achievements |
自閉スペクトラム症(ASD)は、生後初期から認められる社会性の障害や固執的な反復行動を主な特徴とし、胎生・発達期にかけての「神経回路の形成障害」が、発症要因として注目を集める。しかしその一方で、こうした回路形成障害の実態やASDとの因果関係については多くが未解明であり、病態理解を基礎とした合理的な治療法の開発が困難な状況にある。重要なことに、ASDを伴うTimothy症候群の患者では、L型カルシウムチャネルの1アミノ酸変異(G406R、カルシウム流入を過剰に増大)が同定されている。そのため我々は、Timothy症候群モデルマウスの作出と解析を行い、ASD様の行動異常や、抑制性神経回路の形成障害を見出している。 昨年度において、抑制性神経細胞選択的にG406R変異型L型カルシウムチャネルを発現させたところ、興奮性および抑制性神経細胞に同変異チャネルを発現させた際に観察された顕著なASD様の行動異常が観察されなかった。こうした研究成果は、興奮性神経細胞におけるG406R変異型L型カルシウムチャネルの発現が、ASD様の行動異常の原因となることを示唆するものである。そのため今年度では、興奮性神経細胞選択的にG406R変異型L型カルシウムチャネルを発現させ、一連の行動学的評価を実施中である。また興奮性および抑制性神経細胞に同変異チャネルを発現させたマウス系統は、FLP組み換え酵素による変異チャネルのノックアウトが可能である。ウイルスベクターを用いた介入操作により、変異体を欠失させたところ、一部ASD様行動の回復が観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度において、抑制性神経細胞選択的にASD患者由来の変異型L型カルシウムチャネルを発現させたところ、ASDの中核症状である社会性の障害や固執的な反復行動を示す行動異常が認められなかった。こうした研究成果から今年度は申請時の計画を変更し、興奮性神経選択的に同変異チャネルを発現させ、一連のマウス行動試験を推進している。 また今年度は同変異型カルシウムチャネルをFLP組換え酵素により欠失させることで、ASD様行動の回復を検討した。申請時においては、抑制性神経細胞選択的に変異型カルシウムチャネルを発現するマウス系統に対し、治療的介入を実施する計画であった。しかし上述の通り、抑制性神経細胞選択的な変異体チャネル発現ではASD様のマウス行動異常が認められなかったため、興奮性および抑制性神経細胞に変異体チャネルを発現するマウス系統に対し、治療的介入を実施している。その結果、一部のASD様行動において回復が観察され、治療戦略の探索を目的とする本研究計画において、重要な知見が得られたものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の変更にともない研究期間を延長し、来年度は興奮性神経選択的に変異型L型カルシウムチャネルを発現させたマウス系統に対し一連の行動学的評価を完了させ、ASD様の行動異常の有無について結論づける。ASD様の行動異常が観察された際には、同マウス系統における神経活動および回路形成の異常を評価する。 今年度は興奮性および抑制性神経細胞に変異体チャネルを発現するマウス系統に対し、治療的介入を実施し、一部のASD様行動において回復が観察された。同マウス系統では、これまでに神経活動の異常と回路形成障害が認められている。このため来年度においては、治療的介入によりこれらの表現型回復を検討し、ASD様行動の回復機序を明らかとする。
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Causes of Carryover |
申請時に予想していたものとは異なる結果が得られたため、研究計画を変更する必要が生じた。具体的には、抑制性神経細胞選択的に、ASD患者に由来する変異型カルシウムチャネルを発現させたところ、予想されたASD様の行動異常が認められなかった。そのため興奮性神経細胞特異的に変異体チャネルを発現するマウス系統を作製しASD様行動の有無について検討を進めている。こうしたマウス系統を交配させ、行動学的評価が可能となる個体数まで増産する過程で、計画の延長が必要となった。 また病態モデルマウスに対する治療的介入実験についても、当初の計画では抑制性神経細胞選択的に変異体チャネルを発現するマウス系統に対し実施する予定であったが、上記と同様の理由により計画の変更を余儀なくされた。興奮性および抑制性神経細胞に変異体チャネルを発現するマウス系統に対する治療的介入により、ASD様行動の回復が確認されていることから、次年度は神経活動異常および回路形成障害の回復についてさらなる検討を行う。
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