2022 Fiscal Year Research-status Report
Microglia-astrocyte interaction in the pathogenesis of a unique hereditary leukoencephalopathy
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22K15642
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
濱谷 美緒 京都大学, 高等研究院, 特定助教 (20890809)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ミクログリア / アストロサイト / 遺伝性白質脳症 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、「軸索スフェロイド及び色素性グリアを伴う成人発症白質脳症(ALSP)におけるミクログリア(MG)は、CSF1R遺伝子変異を背景に老化・感染などの後天的刺激が加わることでアストロサイト(AS)を活性化し、白質脳症を発症を誘導する」の仮説のもと、患者由来iPS細胞(iPSC)とALSP剖検脳組織を用いALSP病態に迫る。 2022年度は、iPSCからMGの分化方法を研究室内で確立した。実際、CSF1RシグナルはMGを含む単球系細胞の分化・成熟・生存に不可欠な因子であり、前駆細胞やMGの分化はALSP患者群で不良であった。一方、持続的かつ長期のリガンド刺激により分化効率は改善し、最終的に十分量のMG分化に成功した。患者iPSC5株、健常者iPSC5株由来のMGについてRNAsequencingを行い、2022年度末にかけて結果の解析を行った。結果、ALSP-MGではASを活性化する因子(TNFやC1Q、IL1A)はいずれも有意な変化を認めなかった。 ALSP-MGでは、糖代謝、脂肪酸代謝がいずれも低下し、低エネルギー状態にあった。一方、グルタミントランスポーターと代謝酵素グルタミナーゼの発現亢進を認め、エネルギー源としてグルタミンの利用が示唆された。グルタミンはグルタミナーゼによりグルタミン酸に代謝される。ALSP-MGではグルタミン酸を分解するグルタミン酸脱水酵素の発現は亢進せず、グルタミン酸が蓄積することが示唆された。グルタミン酸は、神経毒性をもち多くの神経変性疾患でその関与が示唆されている。また、グルタミン酸はASの活性化・増殖を促進することも知られる。以上より、申請者は「CSF1R遺伝子変異はMGの細胞内代謝をグルタミン代謝に偏倚させ、代謝産物であるグルタミン酸放出が増加することでASの増生を促し、軸索障害をもたらす」という仮説を立て、以後検証を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最初の関門は、ALSP-iPS細胞由来のMG分化の成否であった。前述の通り、CSF1RシグナルはMGを含む単球系細胞の分化・成熟・生存に不可欠な因子であり、MGの分化が障害されている可能性もあったからである。既報プロトコールでの分化期間では前駆細胞の分化が確かに不良であったが、培養期間の延長により対処できた。 申請者は、2022年夏から2022年末にかけて産後・育児休業を取得した。それに伴い、本事業の実験計画変更を申請した。変更後の計画によると、2022年度末までにiPS細胞由来MGのトランスクリプトーム解析を行うことになっていた。休業前にMG分化に成功し、トランスクリプトーム解析を提出、復帰後も順調に課題を遂行し、上記新規知見を得た。 一方で、病態の核となりうる分子の特定には至っていない。しかし、MGの細胞内代謝の変化が病態の第一義であることが強く示唆され、この変化をもたらすキー分子に注目している。このように、キー分子特定の方向性については定まってきているといえる。 したがって、本研究は現時点でおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、MGの細胞内代謝を評価する。細胞外フラックスアナライザーを用いた酸素消費速度、細胞外酸性化速度での評価、細胞内ATPレベルの測定、ミトコンドリアの量的評価を行う。また、培養上清中のグルタミン酸濃度を還元反応を用いてELISAで測定する。MG培養上清をAS培養液に添加しASの増生や活性化が生じるかを確認する。キー分子として、mTOR関連分子を想定している。これらの活性化剤によるALSP-iPS細胞由来MG形質の回復や、阻害剤による健常者-iPS細胞由来MG形質のALSP様変化が生じることを証明する。 また、外的刺激の非存在下でのMG形質を評価している。ALSPは成人発症であることが特徴の一つであり、後天的な刺激が契機となることが示唆される。したがって、今後は前述の方法を用いて分化させたMGについて、病原体/ダメージ関連分子や老化刺激に対する反応性を見る。アウトプットとして高次元フローサイトメトリ、サイトカインマルチプレックスアッセイ、トランスクリプトーム解析による多次元的解析を行い、病態に関わる分子群を選出する。これらを2023年末までに完了する。 2024年度第1四半期~2024年度第2四半期にかけて、上記で選出した病態関連分子について、予定通りALSP患者剖検脳での発現を組織学的に検証する。 以上について、2024年第2四半期を目途に結果を取りまとめ、学会や学術誌に発表する。
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Causes of Carryover |
産後・育児休業の取得に伴い、すでに申請の通り、実験計画の変更を行った。このため、次年度使用額については変更後の研究計画に則り使用する。
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