2022 Fiscal Year Research-status Report
凝集体結合タンパク質SGTAの解析を通じた神経変性疾患の分子病態解明
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22K15731
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
窪田 瞬 横浜市立大学, 附属病院, 助教 (60891851)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 神経変性疾患 / タンパク質凝集体 |
Outline of Annual Research Achievements |
神経組織におけるタンパク質凝集体の沈着は多くの神経変性疾患に共通して見られる重要な病理学的な特徴の一つである. 凝集体の構成因子はそれぞれの疾患により異なるが凝集体形成過程には共通の分子病態の存在が考えられ, 神経変性疾患に共通した病態機序と関連する可能性が注目されている. 凝集体は主に疾患特異的な異常タンパク質から構成されるが, その他に数多くの凝集体結合タンパク質が含まれ, 凝集体形成に関与すると考えられるが詳細は明らかでない.SGTAは申請者らが神経変性疾患モデル細胞の凝集体から独自に見つけ出した凝集体結合タンパク質で先行研究においてハンチントン病モデル細胞, モデルマウスにおいて神経細胞内凝集体と共局在することを示した. また, ヒト剖検組織でも脊髄小脳変性症 (spinocerebellar ataxia: SCA) 1, SCA2, SCA3, 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症といったポリグルタミン病の神経核内封入体ならびに 多系統萎縮症のグリア細胞質内封入体に共局在する事を示した. 本研究はSGTAが各種神経変性疾患の凝集体形成や構造, 毒性といった性質に影響を与えるのか, さらに凝集体が取り込むRNA結合タンパク質およびRNAにどのような影響を与えるのかを解明することを目的とした. まずSGTAと各種凝集体が共局在するのかを検証した. 培養細胞に対してαシヌクレイン凝集体, TDP43凝集体, UBQLN2凝集体を形成させてSGTAと各種病原タンパク質との免疫細胞染色を行ったがSGTAと各種凝集体との共局在はみられなかった. また, これらの培養細胞に対してSGTAを過剰発現させても凝集体形成に変化はみられなかった. SGTAと凝集体の結合には特異性があり, SGTAが凝集体に影響を与える分子メカニズムの解明にはさらさなる検証が必要である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
SGTAが各種凝集体と共局在するか実験を進めた. まず, 培養細胞株 (HEK293T細胞またはNeuro2A細胞)に神経変性疾患で凝集体を形成する各種病原タンパク質を過剰発現させて, SGTAが凝集体へ局在するか確認した. パーキンソン病 ならびに多系統萎縮症の凝集体の主構成成分であるαシヌクレイン, 筋萎縮性側索硬化症で神経細胞質内封入体を構成するTDP43, 筋萎縮性側索硬化症の責任遺伝子の一つで変異により家族性筋萎縮性側索硬化症を発症し, 神経細胞質内凝集体を形成することが知られているUBQLN2を培養細胞に過剰発現させて凝集体を形成させた. これらの細胞に対して抗SGTA抗体と各種病原タンパク質に対する抗体で免疫蛍光細胞染色を行った結果, 内因性SGTAとタンパク質凝集体との共局在はみられなかった. また, これらの凝集体を形成させた培養細胞に対してプラスミドベクターを用いてSGTAを過剰発現させても凝集体形成に変化はみられなかった. 先行研究でSGTAは多系統萎縮症の病理組織でグリア細胞質内封入体と共局在がみられていたことから, グリア細胞質内封入体の構成成分であるαシヌクレインとSGTAが凝集体形成の過程で共局在すると当初の実験計画では想定していた. しかし, 培養細胞でαシヌクレイン凝集体を形成させてもSGTAは凝集体への局在はみられなかった. 培養細胞レベルでSGTAとαシヌクレイン凝集体との共局在を確認した後に, SGTAのαシヌクレイン凝集体結合部位の検索や免疫沈降によるSGTAと凝集体の結合の証明といったさらなる実験を行う予定であったため, 次の実験段階へ進めずにいる.
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Strategy for Future Research Activity |
培養細胞でSGTAとαシヌクレイン凝集体の共局在がみられなかった原因として, 培養細胞で形成させたαシヌクレイン凝集体が多系統萎縮症のグリア細胞質内封入体を再現できていなかった可能性が考えられる. パーキンソン病におけるレビー小体と多系統萎縮症におけるグリア細胞質内封入体はいずれもαシヌクレインを主構成成分とする凝集体ではあるが性質が異なることが近年報告されている. 凝集体形成のもとになるタンパク質(seeds)と凝集体が形成される環境, すなわち凝集体が形成される細胞が凝集体の性質に影響していると考えられている. 今回実験で用いたNeuro2A細胞はマウス神経芽細胞由来の細胞株であった事から, 凝集体の性質としてはレビー小体に近い凝集体が形成されていた可能性が考えられる. 今後の研究の推進方策としては, αシヌクレイン凝集体を形成させる細胞株をグリア細胞株に変更して同一の実験を実施するとともに, 凝集体の鋳型となるseedsをαシヌクレイン変異体(A53T)に変更してSGTAとの共局在を確認していく方針である. また, 凝集体中にはタンパク質だけでなくRNAも多数含まれていることが知られており,凝集体形成の過程にはタンパク質だけでなくRNAも関連していることが想定される. 培養細胞株に各種病原タンパク質 (ポリグルタミンタンパク質, αシヌクレイン)を発現させ, 凝集体を精製し, 凝集体に含まれるRNAをRNAシーケンスにより包括的に解析する. パスウェイ解析, Gene Ontology解析を組み合わせ, 各種凝集体に取り込まれるRNAの特徴を明らかにする. これらの凝集体RNA構成がSGTAによりどのような変化を示すかを検討する.
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Causes of Carryover |
国際学会の発表が見送られたため出張費を使用しなかった。論文投稿のための論文推敲費用ならびに論文出版費に使用する予定である。
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