2022 Fiscal Year Research-status Report
一過性骨髄異常増殖症の発症過程における短型GATA1タンパクの機能解析
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22K15897
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西中 瑶子 京都大学, 医学研究科, 助教 (80789644)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 発がん / ダウン症候群 / 白血病 / 転写因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
一過性骨髄異常増殖症(Transient abnormal myelopoiesis: TAM)は、近年増加しているダウン症児の生下時に合併する前白血病疾患である。TAM患者のうち約60%は自然寛解するが、約20%は死亡し、残りの約20%は一度寛解を経た後、さらに数年以内に追加変異を獲得し、急性巨核芽球性白血病(DS-AMKL)へと進展することが知られている。 特にTAM発症に関連する責任遺伝子としてGATA1遺伝子が同定されているにも関わらず、その働きについては詳細が不明である。正常細胞においてGATA1タンパクは、完全長タンパク(GATA1-fl)とN末端ドメインを欠く短型タンパク(GATA1s)の2種類のアイソフォームを有し、GATA1遺伝子変異が生じると、新規の異常タンパクが誘導されるわけではなく、GATA1-flが翻訳されずGATA1sのみが翻訳される。我々は、このことからGATA1s自身が発現時期や量によって独自の働きをもつのではないかと考え、GATA1sの機能解析を行っている。 我々はこれまでに、TAM患者由来疾患iPS細胞を用いた解析により、GATA1sの発現レベルを調節することで、TAMの表現型に相当する未分化な血液前駆細胞の産生量の増加や、DS-AMKLのリスクとなり得る巨核芽球形前駆細胞の産生量と前駆細胞の長期残存に影響を与える表現型を見出した。 本研究の目的は、この表現型を誘導する転写因子としてのGATA1sの独自の働きを検討するため、TAM疾患iPS細胞を用いて、血球分化の段階毎にChIP-seqを行い、GATA1sの発現量が低発現の細胞と高発現の細胞における結果を比較することで、TAM発症及び、DS-AMKLへの進展における病態分子メカニズムの解明に迫ろうとするものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は、予定通りTAM由来疾患iPS細胞ペア(GATA1-WT株/GATA1s株)及び、これらの細胞それぞれにドキシサイクリン(Dox)誘導性にGATA1sを過剰発現(O/E)した細胞株(GATA1-WT+Δex2株/ GATA1s+Δex2株)の合計4クローンを用いて解析を行った。これまでの我々の研究で同定したTAM発症に重要であると考えられる血液前駆細胞分画の細胞をフローサイトメトリーで単離してChIPを行い、qPCRでChIPの妥当性を確認した後、次世代シークエンサー(NGS)で解析を行った。 この結果を用いて、GATA1-fl、GATA1s、O/EしたGATA1sのそれぞれの機能、つまり結合遺伝子領域を個別に解明するために、GATA1s細胞株(low12)を除く3細胞株のピークを比較し、差分もしくは共通濃縮ピークに対してアノテーションを行った。その結果、GATA1-fl機能には造血の(正の)制御等が、O/E GATA1s機能には顆粒球分化や細胞分化が上位に濃縮されていた。そして興味深いことに、GATA1-fl非存在下でのみ、O/E GATA1s機能には骨髄系細胞分化の制御、造血調節、細胞分化の負の制御等のTAM表現型に大きく関わると考えられるタームが非常に上位に濃縮されていた一方、これらのタームは、GATA1-fl存在化のO/E GATA1s条件では認められなかった。つまり、O/E GATA1sの結合遺伝子領域はGATA1-fl存在の有無に関連して変化しており、それによりGATA1-fl非存在下では細胞分化を骨髄系へと傾け未熟な前駆細胞を増やしてTAMの表現型に大きく寄与していることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
ChIP-seqで得られた遺伝子結合変化の結果より、実際の遺伝子発現はどのように変化しているのかを確認した。ChIP-seqを行った血液前駆細胞分画(HPC)において、GATA1タンパク全般が高い割合で転写開始点から離れた位置に結合していたため、より分化の進んだ以前TAMの責任分画として同定した血液前駆細胞段階(MEP-like cell)において、遺伝子発現レベルでもGATA1sの影響がみられるのではないかと考えた。そこでMEP-like cellにおいて、GATA1-fl非存在下のGATA1s細胞でSTAT3やKLF3等がRNAレベルでも上昇しているかを確認した。先行研究のprimer arrayの結果とChIP-seqの結果を照らし合わせたところ、GATA1s株で結合及び発現上昇が認められた遺伝子にSTAT3が含まれており、WT株と比較して濃縮されていたパスウェイにはJAK-STATカスケードや骨髄系細胞分化が検出されたことから、分化が進むにつれてGATA1sの影響もTAM発症に寄与する遺伝子への結合から実際の発現へと進行する可能性が示唆された。 しかしながら、これらの結果はprimer arrayによる限定的な遺伝子発現における解析に留まっているため、現在、ChIP-seqを行った分化段階と同じ血液前駆細胞分画(HPC)での解析及び、より分化段階の進んだMEP-like cellの2点において目的の細胞をフローサイトメトリーで単離し、RNA-seqを行っている。
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