2022 Fiscal Year Research-status Report
胃癌粘膜下層浸潤の網羅的遺伝子発現解析を用いた検討
Project/Area Number |
22K15959
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
永尾 清香 東京大学, 医学部附属病院, 届出研究員 (30908299)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 胃癌 / 早期胃癌 / 粘膜下層浸潤 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、早期胃癌が浸潤能を獲得し悪性化していく初期段階に関わる分子機序の解明を目標とし、当院でESD治療を受けた早期胃癌のうち、ESD後の病理評価で500μm以上の粘膜下層浸潤を持つ症例と粘膜内癌の症例を用いて、マイクロアレイによる遺伝子発現解析を行った。その結果、粘膜下層浸潤癌では通常は小腸で高発現する遺伝子群が発現低下していた。それらの遺伝子の中でもDEFA5およびDEFA6が粘膜下層浸潤癌で最も顕著に発現低下していた。DEFA5は小腸のパネート細胞から分泌される抗菌ペプチドであるαディフェンシンをコードしている。αディフェンシンは細菌の脂質二重膜に結合することで殺菌作用を示し、腸管の自然免疫および腸内細菌叢の恒常性維持に重要な役割を果たしていることが知られているが、早期胃癌の粘膜下層浸潤においてDEFA5が発現低下することの生物学的意義についてはいまだに明らかとなっていない。 本年度は、マイクロアレイでの結果をさらに検証するために、早期胃癌のESD検体100例を用いてDEFA5の免疫染色を行い、粘膜内癌ではDEFA5の染色を認めたが、粘膜下層浸潤癌ではDEFA5の発現はほとんど認めないことを確認した。 粘膜内癌と粘膜下層浸潤癌で発現変動する遺伝子の機能を調べるために、マイクロアレイのデータを用いてGSEA解析を行い、いくつかの遺伝子セットが有意に発現変動していることを見出した。これらの遺伝子セットの中で、いくつかのキーとなる分子の組織における発現様式を免疫染色で検証している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、マイクロアレイ解析で得られていたDEFA5の発現異常を、免疫組織染色によってタンパクレベルでも検証することができた。さらに、GSEA解析によって粘膜内癌と粘膜下層浸潤癌で発現変動する遺伝子セットを同定することができた。これらの遺伝子セットは、早期胃癌が浸潤能を獲得し悪性化していく初期段階に関わる分子機序に関与している可能性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
GSEA解析で得られた遺伝子セットの中で、いくつかのキーとなる分子の組織における発現様式を免疫染色で検証し、粘膜下層浸潤癌で異常発現する分子を同定する。それらと、臨床病理学的な特徴やDEFA5の発現との関連を明らかにする。DEFA5の異常発現が胃癌においてどのような生物学的意義を有するのかを検証するために、in vitro, in vivoの実験系の確立に取り組んでいく予定である。
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Causes of Carryover |
本年度はマイクロアレイ解析による遺伝子発現解析と組織における発現様式の解明に主眼を置いたため、当初の予定よりも消耗品の使用が少なかった。また、免疫組織染色などの消耗品のコストは、学内連携を利用した結果、当初の想定よりもコストを圧縮することができた。本年度得られた結果を踏まえて、粘膜下層浸潤癌で異常発現する分子の同定と、その生物学的意義の解明のために次年度以降に助成金を使用する予定である。
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