2022 Fiscal Year Research-status Report
シングルセルシーケンスを用いたB型慢性肝炎治癒に関わる新たな免疫機構の解明
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22K16019
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
西尾 啓 大阪大学, 大学院医学系研究科, 助教 (50934907)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | B型慢性肝炎 / 免疫 / T細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
世界には2.5億人のHBV持続感染患者が存在する。HBVは肝細胞内に侵入すると、HBV ゲノムである不完全環状二本鎖DNAが肝細胞内の核内に移行し、完全閉鎖二本鎖 (cccDNA)に修復され、それを鋳型として、HBVの複製に必要な全てのウイルスmRNAが転写される。しかし、cccDNAはクロマチン様構造を呈した状態で核内に安定に存在するため、抗ウイルス治療によるcccDNAの排除は困難である。それゆえ、機能的治癒が現在の治療目標とされているが、核酸アナログ製剤やペグインターフェロン治療などの既存の治療法で機能的治癒が得られるのは、10%未満に限られている。それゆえ、B型慢性肝炎に対する合理的な治療戦略の確立のためにも、HBV感染時の免疫動態のさらなる理解が求められている。 HBV感染時の獲得免疫応答は主にCD4+T細胞及びCD8+T細胞が関与している。CD8+T細胞はT細胞受容体を介して抗原ペプチド・MHC class I複合体を認識し、抗原ペプチドが提示されている感染細胞をアポトーシスに誘導し、感染細胞ごと破壊し、ウイルスを排除する。またIFN-a、TNF-a分泌により抗HBV効果を発揮する。一方、CD4+T細胞はMHC class II分子とHBV由来ペプチドの複合体を認識し、サイトカイン産生で直接ウイルス制御を行うとともに、抗原特異的CD8+T細胞の誘導を補助し、さらにB細胞による抗体産生にも関わる。 本研究課題では、包括的にHBV特異的T細胞を検出し、シングルセルシーケンスにて解析する。HBs抗原高値患者とHBs抗原低値もしくは陰性化患者の血中HBV特異的T細胞を比較検討し、HBs抗原の陰性化に関わるHBV特異的T細胞のクラスターを同定する。さらに同定したクラスターの機能解析や、誘導機構について検討を通じて、B型慢性肝炎治癒に関わる新たな免疫機構の解明を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
B型慢性肝炎患者のヒト末梢血単核球細胞を用いてHBV特異的T細胞の同定に成功した。Validation実験として同細胞集団がHBVペプチドに特異的に反応することを確認済である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題ではHBs抗原値の異なる患者集団を比較することにより、HBs抗原低下に関わるHBV特異的T細胞のクラスターの差異が明らかになるなど、B型慢性肝炎治癒につながる新たな免疫機構の解明が期待される。 申請者はB型慢性肝炎患者、特に比較的HBs抗原値が高い患者例においても目的の細胞集団が検出できることを確認したので、今後、複数のHBs抗原高値例並びに低値例から採取されたPBMC検体をそれぞれHBs抗原ペプチドで刺激培養後、HBV特異的T細胞を同定し、解析を行う予定である。 具体的にはRNAシーケンスを用いて、T細胞の遺伝子発現変異、GSEAを用いたエンリッチメント解析、GO解析を行う予定である。その後、各群よりHBV特異的T細胞を抽出し、シングルセルシーケンスを行う。UMAP (Uniform Manifold Approximation and Projection) などの次元圧縮手法で各クラスターを識別し、Th1/Th2/Tfhなどのアノテーションを行う。そして各患者群と各クラスター間の関連を調べ、特にHBs抗原の低下またはHBs抗原喪失と関連が見られるクラスターの同定や、それに関わる遺伝子発現、並びにパスウェイの探索を行う。さらに、同定クラスターの遺伝子発現、特に膜蛋白関連遺伝子に着目することで、同定クラスターをフローサイトメトリーで検出する。その後、in vitroの系で同クラスターとB細胞の共培養を行うことで、HBs抗体産生能と実際に関連するクラスターかどうかの評価を行う。さらに、同クラスターの誘導機構の解明を行い、同クラスターの発現調節を介した治療介入の可能性についても検討する。
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