2022 Fiscal Year Research-status Report
先天性魚鱗癬の発病および正常化細胞発生による治癒の分子基盤の解明とその新展開
Project/Area Number |
22K16256
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
杉山 誉人 筑波大学, 医学医療系, 特別研究員(PD) (70930329)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 相分離 / タンパク質凝集 / 翻訳制御 / 相同組換え / 魚鱗癬 |
Outline of Annual Research Achievements |
Ichthyosis With Confetti (IWC)は、先天性魚鱗癬の一種であるものの、加齢と共に部分的に遺伝子変異が修復されスポット状に自然治癒していく疾患である。IWCでは、「遺伝子発現異常による角質形成不全」と「相同組換えを介した自然治癒現象」という病態にとって一見相反する2つの表現型が1つの遺伝子変異により起こることから、本研究では、変異ペプチドがなぜ「角質形成不全」を引き起こし、どのように「自然治癒」に関与するのかについて分子レベルで解析することを目的とした。 当該年度は、実際にIWCを惹起する特定の遺伝子の変異ペプチド(以下、IWCペプチド)について、その機能変化や物性変化についてin vitro及びex vivoにおける検討を進め、IWCペプチドが液液相分離を経て細胞核内で凝集体を形成すること、また特徴的な物性変化である相分離と同時に特定の配列を有するmRNAや、タンパク質合成の足場となるリボソームと相互作用することで、タンパク質凝集や翻訳調節を引き起こすことを明らかにした。 当該年度の成果により、IWCペプチドが特定の核酸や核酸を含む高次構造体と親和性を有することが明らかになったことから、このようなユニークな新奇相互作用形成が病態発症や自然治癒の引き金となる可能性がある。当該年度に明らかにしたIWCペプチド-RNA相互作用は病態発症に関与する可能性が考えられる一方で、先行研究により、自然治癒現象はDNAの相同組換えを介して誘発されることが明らかになっていることから、相分離と共役したIWCペプチド-DNA相互作用が自然治癒に強く寄与することが新たに想定された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で解析対象としているIWCペプチドに関する知見は、先行研究において核小体への異常局在が報告されていたのみであった。これまでこのようなタンパク質の局在異常がIWC発症の原因とされてきた一方で、本研究ではその物性変化や機能変化に着目して解析を進めることで、新たに相分離を介した核酸との相互作用変化により、IWCペプチドが多様な機能獲得をする、という可能性を見出しつつある。当該年度までに、根源となる生命現象を同定し、それにより惹起される様々なイベントについて明らかにできていることから、今後これらの詳細な解析を進めることで、疾患や細胞内生命現象の根底を明らかにできると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
当該年度までに、in vitro及びex vivoにおいて、IWCペプチドが液液相分離を経て細胞核内で凝集体を形成すること、また特徴的な物性変化である相分離と同時に特定の配列を有するmRNAや、タンパク質合成の足場となるリボソームと相互作用することで、タンパク質凝集や翻訳調節を引き起こすことを明らかにしている。今後は次世代シーケンス技術を用い、どのようなRNAとどこで相互作用するのか、についてその配列や構造特性に着目して解析を進めたい、 また、先行研究により、自然治癒現象はDNAの相同組換えを介して誘発されることが明らかになっていることから、相分離と共役したIWCペプチド-DNA相互作用が自然治癒に強く寄与する可能性が考えられる。このため、IWCペプチドとDNAの相互作用解析や、その鎖状、配列特性に着目したその特異性の検討を行い、IWCペプチドがどのようなDNAの修復を惹起しうるのか解析を進めたい。
|
Causes of Carryover |
科研費以外の助成金により購入した試薬等で、今年度の研究が遂行できたため、物品費が当初の予定より少額となり、次年度使用額が生じた。次年度に、当初計画していた実験に加え、次世代シーケンス技術を用いた網羅的解析に使用する予定である。
|