2022 Fiscal Year Research-status Report
汗アレルギーにおける抗原感作経路と汗抗原感作における汗のアジュバント効果の解明
Project/Area Number |
22K16281
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
石井 香 広島大学, 医系科学研究科(医), 助教 (90448267)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 汗 / アジュバント効果 / ケラチノサイト / タイトジャンクション / 汗腺 / Claudin3 / サイトカイン |
Outline of Annual Research Achievements |
多くのアトピー性皮膚炎患者(AD)やコリン性蕁麻疹患者では汗抗原(MGL_1304)に対する特異的IgEが検出されており、またこれらの患者は真皮内タイトジャンションの不良により汗管から真皮内に汗が漏出することが報告されている。 前年度に終了報告した研究(ヘアレスマウスを用いて汗をアジュバントとした皮膚免疫を行うと真皮感作で特異的抗体が増強される現象や汗刺激したケラチノサイトが特定のサイトカインの発現増強とERKのリン酸化を確認;科研費課題番号20K17319)からの続きで、汗のアジュバント効果をさらにin vitroで分子レベルのメカニズムの追求を行った。 まず汗刺激したヒトケラチノサイト細胞株(HaCaT)のRNAを採取しRNAシークエンスで遺伝子の発現状況を網羅的に解析した。その中で炎症やバリア機能低下に関連する幾つかの遺伝子の発現増強を確認したので、さらにリアルタイムPCRで再現性を確認した。 汗の中にはIL-1α、IL-1β、IL-31が含まれていることは既知の報告があるので、それらのサイトカインを用いてケラチノサイトを刺激したところ、汗刺激と同様な遺伝子発現増強が確認できた。また汗中の3つのサイトカインの阻害剤(IL-1RA, IL-31中和抗体)を用いたところ、汗刺激による遺伝子増強を抑制することも確認したので、汗中のこれらのサイトカインは炎症やバリア機能に関係するカスケードのトリガーになり得ることが示唆された。 今後は同様の実験を、表皮繊維芽細胞を用いて行い、汗アジュバント効果の追求をすると共に、汗管バリアのタイトジャンクションに関与するClaudin3 KOマウスを用いた抗原感作実験で、アジュバントとしての汗および上記のサイトカインの効果を、抗体産生を指標に検討していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画ではケラチノサイト以外に抗原提示細胞であるランゲルハンス細胞や真皮樹状細胞の汗刺激を予定していたが、汗刺激ケラチノサイトで増強される遺伝子では炎症や免疫に関係するものが多く検出できたので、まずはケラチノサイトでの遺伝子増強を指標に、汗中の主要因子の同定を優先した。ある程度その因子の絞り込みが出来ているので、ここまでのデータで汗が表皮細胞を刺激することによって炎症や病態に作用することを纏めた論文を作成中である。汗中サイトカインが人のケラチノサイトに及ぼす影響は既存の報告があるが、本研究での結果は既存の報告と発現増強される遺伝子が異なり、それらは炎症やバリア機能低下に強く関係する分子だったので、今回汗が表皮細胞に及ぼす影響と、またその汗中の増強因子の同定ができたことは今後の臨床への還元材料としてとても有意義な結果と考えている。 今後続ける研究として、汗漏出のモデルとしてタイトジャンクションに関与するClaudin3 のKOマウスを使った実験に移行するために、マウスケラチノサイトでの同様の現象を確認している。現在このKOマウスの足裏汗腺から汗や抗原の漏出を検討中で、それを確認してからin vivoの実験として汗を用いた抗原感作を引き続き行っていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
多くのアトピー性皮膚炎患者(AD)やコリン性蕁麻疹患者が自己の汗アレルギーを持ち、またこれらの患者は真皮内タイトジャンションの不良により汗管から真皮内に汗が漏出することから着想を得た本研究は、汗中のサイトカインが表皮細胞の炎症や免疫に関与する遺伝子発現増強に関与していることを検証した。今後は汗の汗管から真皮内漏出の状況を、真皮線維芽細胞を汗刺激して発現の動く遺伝子を検証して検討するとともに、マウスを使ったin vivoの系で、タイトジャンクションに関与するClaudin3 KOマウスを用いた抗原感作を行い、汗に含まれるサイトカイン類が真皮内での抗原感作においてアジュバントとしての機能を担っているかどうかの検証を行なう予定である。 真皮内での抗原感作において汗のアジュバント効果に優位差がつくデータが得られた場合は、当初計画していた通り皮膚の抗原提示細胞を末梢血単核球から分化誘導し、汗と皮膚細胞から産生されるサイトカイン類での刺激後、自然免疫(TLR)、抗原提示機能(MHCクラスI, II)、活性化マーカー(CD80/86, CD83)の発現を測定し、汗アジュバント効果における抗体産生メカニズムの分子レベルでの検討を行う。 真皮内感作による抗体産生で汗アジュバント効果が得られない場合、表皮と真皮に汗または汗中サイトカインを投与し、皮膚内での各サイトカインの発現をin vivoで検証し、ADやコリン性蕁麻疹の病態への関連の考察へ繋げていく。
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Causes of Carryover |
ほぼ計画通りに使用できており、わずかな端数を最終年度に繰り越した。同様に物品費として使用する。
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