2022 Fiscal Year Research-status Report
細胞外マトリックスによる脂肪細胞機能と肥満調節機構の解明
Project/Area Number |
22K16413
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
SHIN JIHOON 大阪大学, 大学院医学系研究科, 寄附講座助教 (00813502)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | HSP47 / Adipose tissue / Obesity |
Outline of Annual Research Achievements |
生理的に脂肪組織は外部の栄養状態に合わせて脂質を貯蔵・供給することで全身のエネルギーのバランスを整えている。しかし、現代社会の食事や運動量、ライフスタイルの変化により、脂肪を過剰に蓄積している肥満者が増加し、世界的に人類の健康を害する社会問題となっている。脂肪組織の脂肪蓄積には遺伝的素因や環境的要因などの様々な要素が関係しているが、これらに包括的に適用可能な因子やメカニズムの解明はまだされていない。申請者はこれまで行ってきた脂肪細胞の機能制御因子の研究過程で、脂肪細胞外マトリックスが脂肪細胞内の機能を制御し、脂肪蓄積そのものを調節していることを見出しつつある。総合的なトランスクリプトームを通じ、コラーゲンマトリックスのシャペロンタンパクであるHSP47が脂肪組織に多く発現し、様々な状況で脂肪組織量と相関して発現が調節され、その阻害は脂肪量の低下につながることを見出した。HSP47はコラーゲンマトリックスのフォールディングや分泌に関わっており、全身の栄養状態に応じて発現が制御されることが分かった。摂食などによるインスリンはHSP47の発現を増加させ、逆に空腹時のコルチゾールはその発現を低下させることが分かった。HSP47は細胞外コラーゲンマトリックスを変化させ、細胞内の環境を変化させることで、脂肪組織量を制御していることが分かりつつある。また、その中心には脂肪細胞のマスターレギュレーターであるPPARgの安定性が関係していることがわかり、今後様々な実験系を用い、詳細なメカニズムを解析していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、脂肪細胞外マトリックス調節による脂肪蓄積機構をさらに発展させ、様々な環境において包括的に適用可能な調節機構やそれに関わる具体的な因子・メカニズムを確立することを目的としている。 申請者は、脂肪組織に関わるトランスクリプトームの総合的な解析を通し、様々な脂肪蓄積・肥満の環境と相関して発現が増加する新たな肥満調節因子HSP47を見出した。HSP47遺伝子は摂食、過食、肥満など脂肪が蓄積される環境ではその発現が上昇し、絶食、運動、ダイエット、Cachexiaなど脂肪蓄積が低下する環境では発現が低下することが分かった。また、遺伝的GWAS及びEQTL解析の結果、HSP47遺伝子周辺のSNPによるHSP47の遺伝子発現の増加が、Hip やWaist circumferenceの増加と相関していることが分かった。 生理・病態的HSP47発現制御のメカニズムとして、内分泌ホルモンのインスリンとグルココルチコイドが関係していることが分かった。摂食や過食、肥満状態で増加しているインスリンは、脂肪細胞のHSP47発現を上昇せることが分かった。反対に、空腹や摂食、カロリー制限などの環境で増加するコルチゾールは脂肪細胞のHSP47発現を低下させた。 マウスを用いた実験ではHSP47が脂肪蓄積に関与していることを明らかにした。まず、薬剤を用いた阻害実験では、HSP47の阻害剤の投与により、摂食による脂肪組織の増加が有意に低下した。また、CreーFloxを用い脂肪細胞特異的にHSP47を欠損させたマウスでは、コントロールマウスに比較し、脂肪組織量が著名に低下していた。
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Strategy for Future Research Activity |
HSP47が脂肪細胞のコラーゲンマトリックスのフォールディングやその下流のシグナルを変化させ、脂肪組織量を制御していることが分かりつつある。特に、HSP47は細胞内のPPARgの安定性の制御に関わっており、今後、その詳しいメカニズムを調べていく予定である。実験方法として、3T3脂肪細胞など培養脂肪細胞モデルを作成し、そのPPARgの修飾と結合蛋白を検討する。ウェスタンブロッティング法を用いて培養脂肪細胞モデルのPPARgタンパクのリン酸化の変化を検討する。In vitro ubiquitination assayを用いて培養細胞モデルのPPARgタンパクのUbiquitin修飾を検討する。Mass Spectrometryを用いて培養細胞モデルのPPARgの結合蛋白を同定する。本研究で得られた結果を元に、HSP47や細胞外マトリックス制御、PPARgの分解などに関わる因子をターゲットとし、肥満治療へ応用可能性を評価する。その後、HSP47及び関連因子の肥満治療ターゲットとしての可能性を評価する予定である。実験方法として、ターゲットとなる因子の阻害剤などを用いて肥満モデルマウスに投与し、体重や脂肪組織量、代謝への効果を調べる。糖尿病や血糖値、インスリン感受性など代謝疾患に関わる指標を評価する。脂肪組織を含む肝臓や筋肉等のインスリン標的臓器における糖代謝やインスリン感受性の変化を解析する。
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