2022 Fiscal Year Research-status Report
糖・アミノ酸代謝シフトによる膵がん代謝制御機構の解明
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22K16537
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
伊東山 瑠美 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 助教 (50868172)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 膵癌 / 糖代謝 / アミノ酸代謝 / セリン / PHGDH / PGAM |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、セリン代謝を軸とした代謝リモデリングを行うことにより膵癌がよりその悪性度を高めているという仮説の下、環境に適応する膵癌代謝異常をターゲットにした新たな治療法を開発することである。 膵癌の5年生存率は未だ10%未満であり、あらゆる消化器癌の中でも最も予後不良である。通常膵癌は間質に富む腫瘍で、乏血性であるため、栄養や酸素の供給が十分ではないにも関わらず、浸潤・転移能が高く、臨床的にも術後再発リスクが高い。つまり過酷な腫瘍微小環境の中でも膵癌細胞は生存し、増殖すると言える。そのため、膵癌細胞は特有の代謝リモデリング機構を有していることが予想され、そのことが、膵癌が予後不良である一因と考えられる。 申請者らは、非必須アミノ酸の一種であるセリンに特に着目した。セリンはがん細胞でグルタミンに次いで多く消費されるアミノ酸であることが報告されており、外的セリンを枯渇させるだけで抗腫瘍効果が得られるがん種が存在する一方で、膵癌は外的セリンの枯渇だけでは抗膵癌細胞は非必須アミノ酸の一種であるセリンの生合成を亢進することでその増殖能を加速させる可能性を見出し、セリン欠乏状態に陥った膵癌細胞が、その生合成酵素であるPHGDHの発現を誘導するメカニズムの一つを明らかにした。 本研究ではマウスモデルを用いた生体レベルでの検証で、セリン欠乏状態における膵癌組織の中でのPHGDHの発現や腫瘍の増殖能に着目した実験を主に施行した。また膵癌患者の組織や血液サンプルを用いて、血中セリン濃度が腫瘍での生合成の亢進を反映している可能性を示唆し、今後バイオマーカーや予後予測因子としても有用である可能性について検証を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
・外的セリン飢餓に対するPHGDHの発現誘導の有無については、転写因子ATF4のPHGDH promoter領域に存在する結合部のメチル化に着目し、pyrosequencingにて、同部が高メチル化している膵癌細胞においてはセリン飢餓状態でPHGDHの発現誘導が生じないことを明らかにした。また、実際の切除検体においても免疫染色によるPHGDHの発現量と、組織から抽出したDNAのpyrosequencingによるPHGDH promoter 領域のATF4結合部位のメチル化レベルに負の相関関係があることを確認した。今後はChIPを用いて、同部のメチル化の違いにより、PHGDHのpromoter領域へのATF4の結合の程度の違いを検証する予定である。 ・ヌードマウスに2種類の膵癌細胞株(外的セリン飢餓に耐性を有する株とそうでない株)をそれぞれ移植し、通常の餌とセリン欠乏食を与えた際の腫瘍の成長速度、癌組織内のPHGDHの発現量の違い、またsacrifice時の血中のセリン濃度を比較した。In vitroの実験と同様、in vivoでもセリン飢餓状態でもPHGDHの発現が誘導される膵癌細胞株においては腫瘍の増大が認められた。またPHGDHの発現が誘導される細胞株を移植したマウスの血中セリン濃度は高く、血中セリン濃度の高値は癌部の生合成の亢進を反映している可能性が示唆された。 ・解糖系酵素であるPGAM1は3-PGから2-PGの反応を触媒するが、この3-PGからセリン生合成系は分岐する。セリン生合成に対するPGAM1の働きは過去の報告によるとcontroversialであるが、PGAM1を抑制することで上流の3-PGが蓄積し、セリン生合成が亢進するのではないかと考えた。そこでsh vectorを用いたPGAM1のノックダウン膵癌細胞株を用いて網羅的な代謝物の解析を行ったところ、3-PGの蓄積とセリン濃度の増加が確認された。
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Strategy for Future Research Activity |
・上記のように、今後はChIPとin vivoによる検証の継続を検討している。 ・切除検体や血液サンプルも前向きに集積し、症例数を増やして検証を行う。 ・現在、上記の結果をまとめて論文を作成中であり、科学誌に投稿予定である。
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Causes of Carryover |
当初予定していた旅費予算を使用する機会がなかったため。次年度に合算して使用できる見込み。
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