2023 Fiscal Year Research-status Report
骨巨細胞腫における腫瘍細胞と免疫細胞の相互作用を対象とした新規薬物療法の開発
Project/Area Number |
22K16747
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Research Institution | Osaka Metropolitan University |
Principal Investigator |
高田 尚輝 大阪公立大学, 大学院医学研究科, 病院講師 (10908510)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 骨巨細胞腫 / 間葉系細胞 / 破骨細胞様の多核巨細胞 / グルタミン代謝 / ゾレドロン酸 / アポトーシス / パイロトーシス / ジスルフィラム |
Outline of Annual Research Achievements |
骨巨細胞腫は20~40歳代の長管骨の骨幹端から骨端にかけて好発し、局所破壊性を有し、高い再発率と稀に肺転移や悪性転化を示す中間悪性の骨腫瘍である。骨巨細胞腫は組織学的には腫瘍本体である間葉系細胞、マクロファージ及び破骨細胞様の多核巨細胞からなる。近年、デノスマブが保険適応となり、多核巨細胞の形成抑制に有効であるものの、腫瘍細胞自体に抑制効果がないことから、本研究は骨巨細胞腫の腫瘍細胞に対する新たな薬物療法を探索するものである。 まず、骨巨細胞腫の腫瘍細胞のメタボロームとしてグルタミン代謝に着目した。骨巨細胞腫の細胞株(NCC-GCTB1-C1)と手術検体から解離・単離した腫瘍細胞を用いて、細胞培養を行うと非グルコース下ではグルタミン用量依存性に細胞増殖能が増加する傾向ではあったが、腫瘍細胞はヒト胚性腎臓細胞(HEK293T(と比してグルタミン代謝関連遺伝子の亢進を認めず、グルタミン依存性は明らかでなかった。 次に転移性骨腫瘍などの治療に使用されるゾレドロン酸がデノスマブと異なり、腫瘍細胞へのアポトーシス作用が報告されることに着目した(I Shibuya. et al. Pathol. Oncol. Res, 2019)。まずin vitroでゾレドロン酸12.5uM以上の投与で腫瘍細胞の増殖が抑制されることを確認できた。次に、ゾレドロン酸の腫瘍細胞の増殖抑制メカニズムとして、新たな細胞死の一つであるパイロトーシスに着目し、ゾレドロン酸投与後のパイロトーシス経路関連遺伝子(NLRP3、GSD、CASP1、IL-1β)の変化を確認した所、これら遺伝子の亢進が認められたため、パイロトーシス経路の関連が示唆された。そこでパイロトーシス作用を増強させるため、ジスルフィラムを併用した所、併用群でそれぞれの単独群よりも、より強い腫瘍細胞の増殖抑制効果を認め、有効性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
近年、肉腫においても腫瘍細胞のメタボロームに関する研究が増えてきており、特に腫瘍細胞のグルタミン依存性が複数報告され、グルタミントランスポーター阻害薬やグルタミナーゼ阻害薬の有効性が示唆されている(P Lee et al. Nature communications. 2020)。そこで、本研究においても、当初、骨巨細胞腫の腫瘍細胞のグルタミン需要に着目し、細胞株(NCC-GCTB1-C1)を用いて、まずグルコース含有・非含有下にグルタミンを0,1.25,2.5,5,10,20mMと培地に添加し、CCK-8アッセイやMMT アッセイを用いて細胞増殖能を確認したが、グルコース非含有下にはグルタミン濃度の増加とともに細胞増殖能が増加する傾向にあったが、グルコース非含有下には同様の傾向が認めらなかった。また腫瘍細胞のグルタミン代謝が亢進しているかを検証するためグルタミントランスポーター(LAT1、ASCT2)やグルタミナーゼ(GLS1)の遺伝子発現をヒト胚性腎臓細胞、HEK293T細胞を対照として質的RT-PCRで検証したが、いずれも亢進を認めず、グルタミン依存性を確認できなかった。そのため、グルタミン代謝阻害薬投与実験を一時中断し、新たに破骨細胞様の多核巨細胞抑制作用のあるゾレドロン酸の腫瘍細胞抑制作用に着目し、その作用機序として、近年注目されているパイロトーシス作用を検証することとした。 また本研究では骨巨細胞腫の細胞株を使用しているが、実験系のため、通常の細胞培地を使用すると、増殖能が弱く、手術検体から解離・単離した腫瘍細胞の方が増殖能が強いため、手術検体を用いて実験を行うこととしたが、倫理審査の変更や骨巨細胞腫症例が年間5例程度であることから手術検体からの腫瘍細胞の培養に時間を要した。しかしながら既に、手術検体からの腫瘍細胞の解離・単離には成功している。
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Strategy for Future Research Activity |
グルタミントランスポーター阻害剤の投与は骨巨細胞腫の腫瘍細胞への増殖抑制効果を有するものの、前述の通り、腫瘍細胞のグルタミン依存性は明らかでなく、骨巨細胞腫への特異的な効果ではないために一旦検証を中断することとし、今後はゾレドロン酸の腫瘍細胞への増殖抑制効果とその新規作用メカニズムとしてパイロトーシスに着目して、研究を進めていく予定である。具体的にはまず、ゾレドロン酸投与後のパイロトーシス経路関連遺伝子(NLRP3、GSD、CASP1、IL-1β)の亢進が認められたため、これらをウエスタンブロッティング法にて蛋白レベルで再検証していく予定である。 また前述の通り、使用中の細胞株(NCC-GCTB1-C1)は細胞増殖因子投与下には細胞増殖能を有するものの、通常の培地では増殖能が減弱することを考慮し、これらの実験においては手術検体から単離した腫瘍細胞を用いた実験も並行して行う。倫理審査は既に承認を得ているため、今後は複数の手術検体の腫瘍細胞を用いて、実験を行っていく予定である。 更に今後は腫瘍細胞移植マウスモデルを用いた、投薬実験を行う予定である。まずヌードマウス(BALB/c)の皮下に手術検体から単離した腫瘍細胞を複数濃度で移植し、腫瘍が生着するか、またどの程度の期間で増大するかを確認する。至適な移植腫瘍細胞濃度、腫瘍形成速度が確認できた時点で、ゾレドロン酸・ジスルフィラム・両方の投与を行い、腫瘍の増殖抑制効果を確認する。また組織切片を免疫染色で、組織からの蛋白・遺伝子抽出液をウエスタンブロッティング法・質的RT-PCR法で破骨細胞・マクロファージの変化や腫瘍細胞のパイロトーシス関連蛋白・遺伝子の変化を確認する。
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