2022 Fiscal Year Research-status Report
神経幹細胞を用いた新たな蝸牛有毛細胞再生誘導遺伝子の同定
Project/Area Number |
22K16922
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
岡本 志央 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 研究員 (10838139)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 蝸牛有毛細胞再生 |
Outline of Annual Research Achievements |
私たちが日常的に享受している複雑な音の聴こえ方は、聴覚伝導路を構成する様々な細胞の機能統合により可能となっている。中でも、聴覚器官である蝸牛に存在する有毛細胞は、音の振動を電気信号へと変換し、その信号を神経へと伝達する働きをもち、精緻な聴覚の受容を可能としている。しかし成体哺乳類において有毛細胞が障害を受けると、その機能は自発的には回復せず、聴覚障害は恒久的なものとなる。これまでに、成体哺乳類の蝸牛有毛細胞を再生させる手法が試みられてきたが、有毛細胞の再生効率は非常に低く、喪失した聴覚を意思疎通が可能なレベルに回復させる手法は未解明である。その理由として従来の研究においては、有毛細胞再生を誘導しうる遺伝子の候補として、発生期に有毛細胞分化を誘導する遺伝子や、成体蝸牛において再生有毛細胞の前駆細胞とされている支持細胞のトランスクリプトーム解析により同定された遺伝子が着目されてきたが、充分な再生効率を可能にする遺伝子が未だ同定されていないことが挙げられる。 そこで、本研究においては、神経幹細胞に発現する遺伝子に着目するこことした。蝸牛の大部分は耳胞に由来するが、一部は中枢神経系の原基である神経管に由来することが知られている。以前、我々の研究チームは、胎仔マウス脳および成体マウス脳に高発現する遺伝子のトランスクリプトーム解析を行い、培養神経幹細胞および成体マウス脳に前者を強制発現、後者をノックダウンすることにより、成体マウスの海馬において効率よく神経再生を誘導する遺伝子の組み合わせを同定した。そこで本研究では、時期特異的に、支持細胞に神経再生を誘導する遺伝子の組み合わせを発現するトランスジェニックマウスを作製し、支持細胞の増殖効率を評価した。4週齢のマウスの支持細胞に上記遺伝子の組み合わせを発現させたところ、支持細胞の増殖は観察されたものの、その効率は非常に低いものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年3月の研究室移転に伴い、移転前に飼育していたすべてのマウスラインの凍結胚を作製し、移転後の研究機関において、マウス凍結胚の融解・胚移植による生体マウスへの個体化を行ったため、トランスジェニックマウスの作製後から解析までに時間を要した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実績の概要において記載した、神経再生を誘導する遺伝子の組み合わせの支持細胞への導入によっても、支持細胞の増殖効率が非常に低かった原因としては、4週齢のマウス蝸牛においては、活性化しうる支持細胞の数が極端に少ないことが考えられた。有毛細胞を活性化しうる遺伝子の探索は、研究実績の概要においても記載した通り、様々な手法が試みられてきたものの、有効な遺伝子は未だ同定されていない。そこで新たに有毛細胞を活性化する遺伝子を同定するため、1週齢から3週齢のマウスを使用し、有毛細胞障害モデルを作製し、トランスクリプトーム解析により、障害に反応する細胞群において発現が変動する遺伝子の探索を行う予定である。
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Causes of Carryover |
2022年3月の研究室移転に伴い、移転後に通常通り実験を行うことができるようになるのに時間を要し、当初の計画より進捗が遅れているため、次年度使用額が生じる状況となった。次年度使用額は主に、マウス購入・飼育費、免疫染色に用いる抗体や試薬、トランスクリプトーム解析に必要なキット等に使用する予定である。
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