2022 Fiscal Year Research-status Report
微弱電流を応用した新規低侵襲網膜レーザー治療の研究
Project/Area Number |
22K16964
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
戸塚 清人 東京大学, 医学部附属病院, 病院診療医(出向) (90909970)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 熱ショック蛋白 / 糖尿病黄斑浮腫 / 糖尿病網膜症 / 閾値下レーザー |
Outline of Annual Research Achievements |
現在の糖尿病黄斑浮腫(DME)の治療としては抗血管内皮細胞増殖因子(VEGF)療法が主流だが、積極的な投与でも浮腫残存例が存在し、さらなる治療選択肢の拡大が課題となっている。近年ではマイクロパルスの閾値下レーザー(SMPL)を用いた低侵襲黄斑レーザーが注目されており、網膜色素上皮(RPE)細胞への適度な温熱刺激によって、奏功機序のkey triggerとされる熱ショック 蛋白(HSP)の発現上昇が知られている。しかし、照射出力が高いと過度の温度上昇によって、デリケートな黄斑部への組織傷害を及ぼすリスクもあるため、確立された治療としては課題も残されている。 ここで、温熱刺激によるHSP発現をさらに増強する補因子として微弱電流(MES)が知られており、網膜レーザー治療に活かせる可能性がある。本研究では、SMPLにMESを併用することで、DMEに対する新たな低侵襲レーザー戦略として応用できるかどうかを検証する。 現時点では、まずSMPLを用いずにMESが及ぼす効果を検証している。ヒト培養RPE細胞を用いてMES併用温熱刺激を施行し、HSP及びVEGFの発現動態をmRNAレベル(qPCR)で評価した。結果として、MES併用温熱刺激を施行したRPE細胞ではHSPの有意な上昇を認め、VEGFの低下を認めた。また、既報をもとにヒト培養RPE細胞を処理したDMEモデルを作成し、同様にMES併用温熱刺激を施行した。このモデルでは未処理のモデル(コントロール)と比較してHSPの有意な上昇を認め、VEGFの低下を認めた。以上の細胞実験の結果から、MES併用温熱刺激を施行することでHSPを発現させ、さらにVEGFの減少を誘導した可能性が示唆された。今後はさらに検討項目を増やし、蛋白レベルでの評価とともに、モデル動物を用いた実験に移行する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
はじめに、ヒト培養RPE細胞に対するMES刺激、温熱刺激(ヒーター)、MES併用温熱刺激の安全性評価として、LDH assayを用いて細胞障害率を確認したが、いずれにおいても細胞障害は認めなかった。次に、これらの3群の刺激においてHSPとVEGFの発現動態をmRNAレベルで検証した。結果として、MES刺激および温熱刺激ではコントロールと比較してHSP発現に有意な差が認められなかったものの、MES併用温熱刺激を施行した群ではHSPの発現上昇を認めた。また、VEGFに関しては、温熱刺激、およびMES併用温熱刺激を施行した群においてコントロールと比較して有意な低下を認めた。 既報をもとに、ヒト培養RPE細胞を用いたDMEモデルを作製した。コントロールと比較してこのモデルではVEGFの有意な発現上昇が確認された。このDMEモデル細胞を用いてMES併用温熱刺激を行なった群では、温熱刺激、未処理、コントロール細胞と比較してHSPの有意な上昇を認めた。また、温熱刺激および未処理の群と比較して、MES併用温熱刺激を施行した群ではVEGFの有意な減少を認めたが、コントロールと比較した場合には有意差を認めなかった。これらの結果により、細胞実験のmRNAレベルにおいて、温熱刺激に加えMES処置を併用することでHSPの発現増強効果が示され、DMEモデル細胞においてもMES併用温熱刺激でVEGF発現抑制が認められた。今後はさらに検討項目を増やし、蛋白レベルでの評価とともに、モデル動物を用いた実験に移行する予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでmRNAレベルでの細胞実験系の評価であったが、今後はWestern blottingおよびELISAによる蛋白レベルでの発現動態を確認する。また、今後はヒト培養RPE細胞に対してSMPL照射実験を行い、MES併用による効果を検証していく。まず細胞障害率を算出し安全性の確認を行うとともに、SMPL及びMES併用によるHSPの発現増強やVEGFの発現抑制効果の有無を調査する。さらに、細胞ダメージのリスクを軽減させるため、SMPLの出力を低下させてもMESの併用によって同様の効果が得られるかどうかについてもmRNAレベルと蛋白レベルで評価する。また、SMPLおよびMESによるストレス反応の相違についてHSPファミリー、ユビキチン化蛋白、さらに小胞体ストレス応答(Unfolded protein response, UPR)のマーカー蛋白の発現変化についても調査する。 次に、糖尿病モデルマウスを用いてMES併用温熱刺激、MES併用SMPLを行い、従来よりも低出力のSMPLでもMES併用によって効果が得られるかを検討する。臨床で用いられる出力設定方法(titration)および低出力のSMPL、およびMES併用SMPL(従来出力および低出力)の処理を行い、マウスの分離網膜を用いてHSPファミリーの発現増強をqPCRおよび蛋白レベルで評価する。さらに、VEGFやDMEに関与する炎症性サイトカインの発現変動についても検証を行う。網膜の免疫染色によってマクロファージ、細胞アポトー シスの変化を調べ、また、光干渉断層計を用いた網膜厚および網膜内構造についても評価を行なっていく。
|
Causes of Carryover |
実際の実験経過から、細胞を用いた負荷実験での検討項目を絞って解析を行なったため、当初考えていたよりも購入する試薬が少なかったことが挙げられる。現時点の結果では主軸となる項目(HSPやVEGF)で比較的望ましい結果が得られているため、次年度では当初の検討項目の評価を行うために、さらなる試薬その他の計上を行う予定である。
|