2022 Fiscal Year Research-status Report
転写因子TFAP2Eによる口腔がん細胞の細胞周期制御機構の解明
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22K17028
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
稲垣 喜則 日本大学, 医学部, 研究医員 (30836325)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 口腔がん / 転写因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
転写因子TFAP2Eは多くの悪性腫瘍においてがん抑制遺伝子として機能していることが知られているが、その作用機序については不明な点が多い。最近私は、口腔がん細胞におけるTFAP2Eの発現を抑制すると、細胞増殖速度が進行すること、さらにそれがG2/M期の進行速度の増大の結果生じていることを見出した。また、この現象がTP53変異型細胞に特徴的であり、野生型TP53を持つ細胞では観察されなかったことから、TFAP2EがTP53の関与するシグナル伝達経路に作用して細胞周期を制御している可能性が考えられた。そこで本研究ではTFAP2Eによる細胞周期制御の詳細な分子機序を解明することを目的とし、特にTP53との関連に焦点を当てて研究を開始した。令和4年度は、TP53変異型細胞であるHSC4にTFAP2E shRNAまたはコントロールshRNAを導入し、安定発現クローンを複数樹立した。これらの細胞の細胞増殖速度を調べたところ、TFAP2Eノックダウン(KD)群細胞ではコントロールと比較して明らかに細胞増殖速度が亢進していた。一方、シスプラチンや活性酸素を投与し、その後の生存率を調べたところ、大きな違いは見られなかった。なお、細胞周期解析のためにこれらのクローンを二重チミジン法でG1期に同期させ、その後の細胞周期の進行を調べる実験を試みたが、この細胞ではG1期への同期ができなかった。次に、既にTFAP2E KD株を作成済みのCa9-22細胞にTFAP2Eを安定的に過剰発現させ、同様の機能解析を行った。その結果、ストレス耐性には変化は見られなかったが、KDした場合とは逆に、細胞増殖速度の低下とG2/M期の進行速度の低下が確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
予定通り、TFAP2EのshRNAを安定的に導入した株や、安定的に過剰発現した株を樹立し、機能解析を行えたが、予想外なことにTFAP2E shRNAを導入したHSC4細胞では、二重チミジン法による細胞周期の同期ができず、細胞周期の解析ができなかったため、やや遅れていると判断した。また、当初UM-SCC1細胞株はデータベース上でTP53野生型とされていたため、この細胞でTFAP2Eのノックダウンをしても細胞の性質に影響が出なかった結果をもって、TFAP2Eの機能がTP53と干渉するとの仮説を立てたが、その後、この細胞がTP53 欠損株であることがわかった。従って、解析に用いた細胞の中ではUM-SCC6のみがTP53野生型であった。現時点で得られている結果では、TP53変異型のHSC4とCa9-22細胞ではTFAP2Eノックダウンによる細胞増殖速度亢進がみられ、TP53欠損型のUM-SCC1とTP53野生型のUM-SCC6ではTFAP2Eノックダウンによる増殖速度の変化が観察されないということになる。このことから、TFAP2Eのノックダウンにより細胞増殖速度が亢進するためには野生型TP53の機能が失われていることが必要であるとする可能性は低くなり、変異型TP53のGain of Function が関連している可能性が残った。そのため、下記のように研究方針を変更する必要があり、その点も、やや遅れているとした理由になる。
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Strategy for Future Research Activity |
二重チミジン法で処理した細胞ではTFAP2EのsiRNAが効かないことから、TFAP2E shRNAを安定的に導入して解析を試みたが、これらの細胞ではG1期への同期が上手く行かなかった。そこで、細胞周期を同期させず、ノコダゾールを入れた培地で培養し、継時的に細胞を回収することで、M期進行までの細胞周期の進行速度を調べる方法に切り替える。この際、EdUによるDNAパルスラベルを行い、S期の進行速度や、S期からG2/Mの進行速度も調べる。さらに、リン酸化Histone H3の染色も行い、G2期からM期への進行速度も同時に調べる。また、TFAP2EのKDによる細胞周期の進行が、野生型TP53の機能喪失である可能性が低くなり、一方、変異型TP53のGain of function が関連している可能性はまだ否定されていないことから、TP53をKDした状態で、TFAP2EのKD効果を調べる実験は、変異型TP53を持つHSC4とCa9-22に集中して行っていく。この実験でTFAP2EとTP53の機能的な関連が見いだせなかった場合は、TP53経路に限らず、細胞周期の進行に関連する分子の中からTFAP2Eの標的遺伝子を見つける方針に切り替える。
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Causes of Carryover |
予定していた実験を次年度に延期したため次年度使用額が生じた。令和5年度は前年度に行う予定であった実験を実施するための試薬類、実験器具を購入する計画である。
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