2022 Fiscal Year Research-status Report
容易に注入できるが流出しにくく強度も高いリン酸カルシウムセメントの開発
Project/Area Number |
22K17093
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
金 藝殷 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学域), 特任研究員 (40910576)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | リン酸カルシウム系セメント / ポロキサマー / ハロイサイトのナノチューブ / 高注入性 / 高強度 / 迅速硬化 / 生体親和性 / 細胞接着性 |
Outline of Annual Research Achievements |
リン酸カルシウムセメント(CPC)原料粉末をボールミリング法(材料とボールを混練して粉砕する方法)で微細化することで、CPCに高注入性、高強度、迅速硬化を同時に付与できることを見出した。その一方、この試作セメントの注入直後の流動性は依然として高く、注入後の流出の危険性が残っていることを確認した。その対策として、CPCに逆温度応答性ゲル化剤(通常の温度応答性ゲルとは逆に、低温ではゾル化して流動性が高く、高温はゲル化して流動性を失う性質)であるポロキサマーを添加することで、5℃程度に冷却して流動性の高い状態のCPCペーストを患部に注入し、短時間で体温付近まで昇温することで直ちにゲル化し流動性を失う性質を付与することが可能となった。これまでにポロキサマーの生体安全性は多角的に評価されており、肯定的な結果が多いが、体内での骨リモデリングへの生物学的影響は解明されていない。そこで本研究では、ポロキサマーを添加した試作CPCが、細胞の活動と骨移植材料としての機能にどのような影響を与えるかを理解することを目的とした。 そこで当年はこれまでの成果より得られたCPC系セメントについての生化学的評価を重点的におこなうべく、骨芽細胞様細胞を用いたセメント硬化体への細胞接着性、生存率、各種酵素活性を評価し、また走査型電子顕微鏡(SEM)撮像および蛍光顕微鏡撮像により形態学的観察評価をおこなった。その結果,ポロキサマーを添加したCPCは、無添加CPCと同等な生体適合性を備え,また細胞付着、増殖および分化からはポロキサマー添加による細胞増殖の促進効果の可能性が示される結果であった。以上の良好な結果を得て,現在は本研究をさらに飛躍させるための施策を検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題の材料は,物理的・機械的性質についての評価を重点的に進めてきており,CPC系セメントとしての硬化特性や,流動性ペーストとしての注入性などの物性を明らかにしてきた。その一方で生体適合性などの生化学的な評価が不十分であるため,まずは生化学的評価として、細胞株を用いた各種生化学的な評価をおこなった。評価としては骨前駆骨芽細胞様細胞を用いたセメント硬化体への細胞接着性、生存率、乳酸脱水素酵素(LDH)放出およびアルカリ性リン酸加水分解酵素(ALP) 活性評価をおこない、また形態学的な評価として走査型電子顕微鏡(SEM)で微細構造を観察し、接着性、増殖能、分化についてセメント硬化体による影響を評価した。ポロキサマーを添加したCPCは、添加していない無添加CPCに比べて細胞付着、増殖および分化が増加した。特に、水酸アパタイト(HA)結晶に対し,密接なしっかり付着した細胞質の多角形拡張を様相が観察された得られる。この結果は、CPC粉末にポロキサマーを追加することが、骨欠陥欠損部の再建復旧および再生のための潜在的な治療応用と見なされるの可能性があることを示した。これらの結果はポロキサマーの生体親和性は十分に高いと評価し、CPCへのポロキサマー添加が生化学的に良好な結果を得ているためおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
1.骨前駆細胞を用いたHNT添加CPCの生化学的評価 これまでにCPCの強度向上を意図してジルコニアのナノファイバー添加を試みたが、顕著な強度向上効果は認められず、その原因はCPCペースト中でナノファイバーが均質に分散しなかったためと考えている。CPCペースト中で高い分散性を示すにはフィラー表面が高親水性である必要があり、アルミノシリカ系の鉱物であるハロイサイト・ナノチューブ(HNT)に着目した。現在は、HNTの添加量や混練方法を変えた試作CPCの評価を進めている。並行して、骨前駆細胞を用いた細胞接着性、生存率、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)放出およびアルカリ性リン酸加水分解酵素(ALP) 活性を評価し、接着性、増殖能、分化に与える影響を評価する。 2.中型動物(成ヤギ)での術式評価および生体内でのHNTの挙動解析 成ヤギ脊椎骨を対象とした注入埋入法による流動性や形態維持性に着目した術式評価、埋入後1ヶ月~2ヶ月程度でのマイクロCTによるセメント吸収性や形態性評価、新生骨量評価、組織切片による病理学的および免疫学的評価によるセメント吸収性や炎症性変化、新生骨形成能などの評価を包括的におこなう。硬化したCPC中のHNTが容易に脱離するとは考えていないが、CPCの分解・吸収過程を経て、HNTがどのような位置や形態で残存するのかを明らかにすることは、安全性の担保のために重要である。CPC分解時に硬化体から放出され、体液の流れに沿って体内で拡散するのか、あるいは新生骨中に留まるのか、慎重に確認する。新生骨内に留まる場合は体内への放出リスクは限定的と考えられるが、長期的な骨代謝への影響など、多角的な評価の必要があり、動物を用いた長期的な評価も視野に入れる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大防止、感染対策方針に従って、試料作製に対する人件費・謝金の使用が難しい状況だったため次年度使用額が生じた。翌年度分として請求した研究費と合わせて使用する予定である。翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画は予定通り進める。 ボールミルはポット内のボールと試料が撹拌されて試料が粉砕される機構であり,ボールとポットの摩耗は不可避であることから消耗品として扱われており、許容範囲を超える前に交換が必要である。試作セメント作製用原料として,β-TCPとポロキサマーとハロイサイトのナノチューブ(HNT)を購入する。 今年は動物実験として成ヤギでの生体内評価が可能な研究機関の協力の下でおこなう。飼育は研究機関で行い,動物実験施設使用料が必要となる。生化学的評価に対する消耗品と中型動物(成ヤギ)での術式評価に必要な、CPC原料、動物実験で用いる試薬と抗体,その他の消耗品も合わせて計上する。 研究は予備実験などを開始しており,2023年度後期には学会で結果を発表できる予定であるため,国際学会成果発表旅費を計上する。得られた結果を踏まえ,2024年度初期には論文1報の作成が可能と考えており,その英文校正料と掲載料として使用する予定である。
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