2023 Fiscal Year Research-status Report
容易に注入できるが流出しにくく強度も高いリン酸カルシウムセメントの開発
Project/Area Number |
22K17093
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
金 藝殷 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学域), 特任研究員 (40910576)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | リン酸カルシウム系セメント / ポロキサマー / ハロイサイトナノチューブ / 高注入性 / 高強度 / 迅速硬化 / 生体親和性 / 細胞接着性 |
Outline of Annual Research Achievements |
リン酸カルシウムセメント(CPC)原料粉末をボールミリング法で微細化し、CPCに高注入性、高強度、迅速硬化を同時に付与できることを見出した。CPCに逆温度応答性ゲル化剤であるポロキサマーを添加することで、短時間で体温付近まで昇温することで直ちにゲル化し流動性を失う性質を付与することが可能となった。またポロキサマーを添加した試作CPC についての生化学的評価を重点的におこなった。その結果,ポロキサマーを添加した試作CPCは無添加CPCと同等な生体適合性が期待でき、細胞付着、増殖および分化の様相からポロキサマー添加による細胞増殖促進の可能性が示された。 これまでにジルコニアのナノファイバーを添加した試作CPCの評価を行ったが、顕著な強度向上効果は認められなかった。ペースト中に添加したフィラーの分散性にはフィラーの親水性が影響し、水ベースのペースト中では、高親水性フィラーが分散しやすい。そこで、生体材料への添加が検討されている繊維状の酸化物系セラミックスで、ジルコニアより高い親水性が期待できるハロイサイトのナノチューブ(HNT)に着目した。特に表面処理によって親水性を制御できることから、様々な液性の溶液中で機能することが報告されている。親水性を付与できるという特性と、CPCペーストに適していると期待できる形状・サイズに注目して、本試作CPCの添加材として、 機械的特性と 骨前駆細胞を用いた生化学的評価をおこなった。その結果,HNT添加により、 添加していないCPCの高注入性と迅速硬化性を維持しつつ、強度と靭性が向上し、また同等な生体適合性を備えた。以上の良好な結果を得て,現在は本研究をさらに飛躍させるための施策を検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題の材料は,物理的・機械的性質についての評価を重点的に進めてきており,CPC系セメントとしての硬化特性や,流動性ペーストとしての注入性などの物性を明らかにしてきた。その一方で生体適合性などの生化学的な評価が不十分であるため,まずは生化学的評価として、細胞株を用いた各種生化学的な評価をおこなった。評価としては骨前駆骨芽細胞様細胞を用いたセメント硬化体への細胞接着性、生存率、乳酸脱水素酵素(LDH)放出およびアルカリ性リン酸加水分解酵素(ALP) 活性評価をおこない、また形態学的な評価として走査型電子顕微鏡(SEM)で微細構造を観察し、接着性、増殖能、分化についてセメント硬化体による影響を評価した。HNTを添加したCPCは、添加していないCPCに比べて高注入性と迅速硬化性を維持しつつ、強度と靭性が向上し、また同等な生体適合性を示した。CPCへのHNT添加が機械的特性に良好な影響を与えているためおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
1.中型動物での術式評価および生体内埋入試験 ラットおよびウサギを用いた動物実験は学内の動物実験施設で行う。大腿骨を対象とした 埋入法として、注射器を利用したCPC paste注入、3DプリントしたCPC硬化体埋入、モールド成型した円筒型硬化体埋入それぞれでの流動性や形態維持持性に着目した術式評価を明らかにする。埋入後1~2ヶ月程度で慢性評価を行った後、犠死後試料を組織と一塊で摘出し、マイクロCTによるセメント流動性・吸収性や形態維持特性評価、新生骨量評価、また組織切片による病理学的および免疫学的評価によるセメント吸収性や炎症性変化、新生骨形成能など、生体内評価を包括的におこなう。術場での操作性に関しても、滅菌済み材料を清潔野で練和したペーストをシリンジに注入して冷凍保存することで、注入性を維持したまま術場へと持ち込むことが可能である。これらの生体内実験から、臨床応用に資する非常に重要なフィードバックが得られると考えている。
2.生体内でのX線透視下での挙動評価 硬化したCPC中のHNTが容易に脱離するとは考えていないが、CPCの分解・吸収過程を経て、硬化体から放出され、体液の流れに沿って体内で拡散するのか、新生骨中に留まるのか、慎重に確認する。新生骨内に留まる場合は体内への放出リスクは限定的と考えられるが、長期的な骨代謝への影響など、多角的な評価の必要があり、動物を用いた長期的評価も視野に入れる。 HNT添加により、これまでの試作CPCの高注入性と迅速硬化性を維持しつつ強度と靭性が向上すれば、バルーン椎体形成術での使用が可能となり、従来のPMMA系セメントの欠点である生体為害性の排除と、骨に置換可能である点から長期的な安全性の確保が可能となる。また、HNTの高い親水性の効果により、CPCの生体活性および骨伝導度が向上すれば、骨再生までの時間を短縮することで患者のQOL回復に有効と期待できる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大防止のため、大学の感染対策方針に従って、試料作製に対する人件費・謝金を使用しなかったため次年度使用額が生じた。翌年度分として請求した研究費とあわせて人件費・謝金に使用する予定である。
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