2023 Fiscal Year Research-status Report
銀イオンを活用する安全な新規抗菌性PEEK冠の開発
Project/Area Number |
22K17113
|
Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
西尾 文子 鹿児島大学, 医歯学域歯学系, 助教 (00881294)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | PEEK / 金属代替材料 / 歯冠修復 |
Outline of Annual Research Achievements |
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)は高い熱安定性、耐加水分解性、曲げ強度、材料加工性、耐薬品性や生体安定性を有することから生体材料として注目されており、人工関節やインプラントに応用する研究が行われている。さらに、近年パラジウム等歯科用貴金属の価格高騰が新たな問題となっており、価格変動の少ない材料に対する需要が増している中、安定した供給が可能であるPEEKのような金属代替材料の解明は急務である。患者20名に対して歯冠色PEEK冠を装着し経過を観察した。その結果は良好であり歯冠補綴物の材料としてPEEKは有用である事が明らかになった(Clinical report of six-month follow-up after cementing PEEK crown on molars)。しかしながら、PEEK冠自体には従来の補綴物と同様に口腔内環境が劣悪な者において歯冠修復物と歯質の界面へのプラーク付着による二次齲蝕を引き起こす懸念がある。そこで、申請者はPEEKの高い材料加工性に着目し、材料に抗菌性を持たせることで付加価値をもつ歯冠修復物を開発することを着想した。抗菌剤には、熱安定性に優れ材料内に固定化可能である銀ナノ粒子を含有した抗菌性ゼオライトを用いた。ゼオライトは、結晶性のアルミノケイ酸塩の一種でイオン交換能を有しておりその構造の一部を銀と置換することで抗菌性を有することが知られており、銀イオン含有ゼオライトはPEEKの融点である343度でも変性することがない抗菌剤である。抗菌成分を含有する歯冠修復材料の開発が成功すれば、健常者のみならず認知機能が低下した高齢者に対して定期的に行う必要のある口腔ケアの効果を増強させ、より口腔衛生状態を改善させることが可能となると考えた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2023年度は、銀ナノ粒子4%を混和したPEEK試験片と混和していないPEEK試験片をJIS Z 2801に準じた手法を用いてその抗菌性を調査した。PEEKの表面性状が菌の付着に影響を及ぼしていると考え、表面性状の分析を行い、銀ナノ粒子を混和した試験片のミュータンス菌に対する抗菌試験を行った。結果、射出成型した直後のPEEK試験片では抗菌性がみられなかったものの表層を1000glidのエメリーペーパーにて研磨したPEEK試験片では大腸菌、黄色ブドウ球菌のみならずStreptococcus mutansとCandida albicansに対しても十分な抗菌性を発揮することが明らかになった。実際に患者に用いることを想定した場合、咬合調整等表面研磨は必須であるため効果が得られると予測できる。 また、PEEKは既存の臨床にて用いられている研磨用バーを用いて研磨を行うことで0.2マイクロメートル以下の表面粗さを示すようになった。これは細菌付着やプラーク堆積、患者による舌感の観点から表面粗さ0.2マイクロメートル以下が望ましいとされているとされている数値である。そのため、PEEKは臨床にて用いるにあたり十分な表面の滑沢さを得られることが明らかになった。この内容は現在論文執筆中である。また、歯冠色PEEKのレントゲン不透過性についてもレントゲン撮影を行い、医科用CT装置にて撮影を行った際にハレーション等見られず誤飲誤嚥が起こった際には胸部CT撮影が望ましいことが明らかになったことを発表した(Radiopaque properties of polyetheretherketone crown at laboratory study)。
|
Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、追加で抗菌剤を含有したPEEK材を作製することことから始める。ISO178、JIS K7171に準じた短冊状の形態の試料を作製し、これを用いて三点曲げ試験を行う予定である。他の材料と比較することで補綴物としての使用の検討を行い、強度に問題がないことを確認する。また、接着力についても検討する予定である。抗菌剤を含有したPEEK材と臨床において広く用いられている接着性レジンセメントとの接着性やプライマーとの組み合わせやサンドブラストなどの表面処理での接着力の変化を剪断試験にて測定し最も適したものを模索する。これらの結果は可及的速やかに学会発表や論文として公表していく予定である。 また、歯冠色PEEKは既存の臨床にて用いられている研磨用バーを用いて研磨を行うことで患者に対して用いるために十分な表面の滑沢さを得られたことについての内容を論文にて発表する。さらに、臨床に用いる際に必要な情報があれば随時基礎実験を行い、発表していく予定である。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍の影響により当初計画していた発表および情報収集を計画していた学会への参加がかなわなかったことからそれに伴う移動等の予算が発生しなかったため。また、年度後半に試料の不足が生じたため原材料の発注を行っていたが輸送費の高騰や物価上昇につき供給が遅れてしまったために試料の作製もそれに伴い遅れてしまい年度内での終了が困難になった。
|