2022 Fiscal Year Research-status Report
ABCトランスポーターを基軸としたS. mutansのシグナル伝達システムの解明
Project/Area Number |
22K17228
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
後藤 花奈 岡山大学, 大学病院, 助教 (90846495)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | Streptococcus mutans / ABCトランスポーター / バイオフィルム / 膜タンパク / シグナル伝達システム |
Outline of Annual Research Achievements |
齲蝕原性細菌 Streptococcus mutans が保有するABCトランスポーターは、必要な栄養素を取り込むとともに不要なものを排出することで、強固なバイフォイルムを作り出すことができる。本研究では、S. mutansの新たなABCトランスポーターをコードする可能性のある遺伝子を抽出し、それらの機能を明らかにした。 本研究では、S. mutansの全遺伝子配列からABC 膜輸送体をコードすると推定されるSMU_1519遺伝子を抽出し、その欠失変異株を作製し、実験に供試した。SMU_1519遺伝子欠失変異株では、親株と比較してバイオフィルム形成量の低下が認められ、バイオフィルム構造は粗造に変化していた。また、遺伝子発現状態の確認を行うためにRNA シーケンシング解析を行ったところ、糖代謝に関与する遺伝子の発現量の低下およびABCトランスポーターをコードする遺伝子の発現量の増加を認めた。これらのことから、SMU_1519遺伝子は菌の増殖やバイオフィルム形成に関与していることが明らかとなった。さらに、S. mutans では、2成分調節因子システムと呼ばれるシグナル伝達システムが存在し、このシステムでは、Competence-stimulating peptide (CSP) が遺伝子の発現状況を変化させ、バイオフィルム形成に重要な働きを果たしていることが知られている。しかしながら、CSP添加によってSMU_1519遺伝子の発現量に変化は認めず、このABC膜輸送体はCSP以外のシグナル伝達系によって制御されている可能性が示された。 今後は、SMU_1519遺伝子がバイオフィルム形成にどのように関連するのかを明確にし、環境変化に対するストレス応答機能、さらには抗生物質に対する感受性についても検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた研究計画どおりに研究を遂行することができている。今後は、ABC膜輸送体の機能をさらに分析し、最終的にはABC膜輸送体が関わるS. mutansのシグナル伝達システムの詳細なメカニズムを解明し、バイオフィルムを制御する方法の確立に繋げたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
バイオフィルム形成中やストレス環境下におけるSMU_1519遺伝子の発現を調べることにより、バイオフィルム形成におけるABCトランスポーターの役割を特定する。ストレス環境条件下として浸透圧(0.5%NaCl添加)、高温(42℃)および好気条件下で対数増殖期まで培養した供試菌とストレス非添加条件で対数増殖期まで培養した供試菌の全RNAを抽出しcDNAを合成、これを鋳型として各遺伝子特異的なプライマーを使用し、Real-Time PCR法にて定量的PCRを行い、ΔΔCt法にて各遺伝子の相対定量を行う。 さらに、抗生物質に対する感受性を検討するため、遺伝子欠失株を、抗菌物質非添加および各種抗菌物質(テトラサイクリン、カナマイシン、トリクロサン、ペニシリン、クロルヘキシジン、クロラムフェニコール等)を添加した培地で37℃、18時間培養し吸光度の測定を行う予定である。
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Causes of Carryover |
(理由)RNAシーケシングのデータ解析が遅れたため。
(使用計画)このデータから新たなABCトランスポーター遺伝子を抽出し、解析する予定である。
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