2022 Fiscal Year Research-status Report
吸入性有機化学物質の肺炎症誘発の病態解明:肺胞マクロファージの形態・形質解析
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22K17360
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Research Institution | University of Occupational and Environmental Health, Japan |
Principal Investigator |
友永 泰介 産業医科大学, 産業生態科学研究所, 学内講師 (20721707)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | アクリル酸系ポリマー / 肺胞マクロファージ / 気管内注入試験 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、アクリル酸系ポリマーをマウスの気道に注入する気管内注入試験(in vivo試験)や培養した不死化マウス肺胞マクロファージに投与する培地内添加試験(in vitro試験)を実施し、ポリマーを貪食した肺胞マクロファージの形態変化、形質変化および遺伝子発現変化を明らかにすることで、吸入性有機化学物質によって誘発される炎症の病態および機序解明を目指す。今年度は、有害性の高いアクリル酸系ポリマーを蛍光物質で標識した蛍光ポリマーを使って気管内注入試験と培地内添加試験を実施した。 気管内注入試験(in vivo実験):蛍光ポリマーをマウスの気管内に注入して1日後に、マウスを麻酔下に安楽死させ、肺に生理食塩を注入して吸引することで肺胞マクロファージを含む気管支肺胞洗浄液を回収した。蛍光顕微鏡観察により肺胞マクロファージが蛍光ポリマーを貪食することを確認したが気管支肺胞洗浄液中には好中球も多く存在していた。遺伝子解析を実施するには肺胞マクロファージとそれ以外を分画する必要があるため肺胞マクロファージの細胞膜に発現するCd11cに結合する磁気抗体を使った分画方法を実施し、肺胞マクロファージを分画できることを確認した。 培地内添加試験(in vitro実験):株化した不死化マウス肺胞マクロファージに蛍光ポリマーをばく露し、蛍光ポリマーを貪食することを確認した。次に、不死化マウス肺胞マクロファージに有害性の高いアクリル酸系ポリマー、有害性の低いアクリル酸系ポリマー、および対象物として溶媒を細胞培地に添加し、72時間後に細胞を回収した。これらの細胞から総RNAを抽出し、メッセンジャーRNAのマイクロアレイ解析を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
気管内注入試験(in vivo実験)に関して、蛍光標識したアクリル酸系ポリマー(蛍光ポリマー)を使った気管内注入試験(in vivo試験)と培地内添加試験(in vitro試験)を実施し、肺胞マクロファージが蛍光ポリマーを貪食することを確認したが、in vivo試験で回収した気管支肺胞洗浄液中には肺胞マクロファージのみならず好中球も多く存在するため遺伝子発現解析を実施するには肺胞マクロファージを高い純度で分画する必要がある。本年度は、肺胞マクロファージの細胞膜に発現するCd11cに結合する磁器抗体を使ったポジティブセレクションで分画したが、分画の精度および回収量を高めるため、ネガティブセレクションも検討している。 培地内添加試験(in vitro実験)に関して、株化した不死化マウス肺胞マクロファージが蛍光ポリマーを貪食することを確認したため、本年度予定した有害性の高いアクリル酸系ポリマーのみならず、来年度予定していた有害性の低いアクリル酸系ポリマーも不死化マウス肺胞マクロファージの培地に添加して、mRNAのマイクロアレイ解析を実施した。有害性の高いアクリル酸系ポリマー、有害性の低いアクリル酸系ポリマーおよび溶媒を添加した時の各遺伝子発現量の比較解析を行い、アクリル酸系ポリマーの有害性に関連のある遺伝子の絞り込みを行っている。解析の途中であるが、炎症性サイトカイン放出や細胞死の誘導に関連する遺伝子の発現量に変化がある興味深い結果を得ている。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、気管内注入試験(in vivo実験)に関して、肺胞マクロファージの分画の精度と回収量を高めるため、主に好中球の細胞膜に発現するLy-6Gなどに結合する磁気抗体を使用したネガティブセレクションを試み、ポジティブセレクションと比較しながら回収方法の最適条件を見出す。マウスの気管支肺胞洗浄液中のアクリル酸系ポリマーを貪食した肺胞マクロファージを最適条件で回収し、遺伝子発現解析を行う。 培地内添加試験(in vitro実験)に関して、有害性の高いアクリル酸系ポリマーに蛍光物質を標識することは終了しているが、有害性の低いアクリル酸系ポリマーにも蛍光物質を標識する予定である。蛍光標識した有害性の高い、あるいは低いアクリル酸系ポリマーを不死化マウス肺胞マクロファージに投与して、取り込む細胞の数、取り込み量を比較検討し、取り込むことによる形態変化(細胞死など)や形質変化(遊走能など)の相違を検討する。 気管内注入試験(in vivo実験)と培地内添加試験(in vitro実験)の遺伝子発現を比較し、アクリル酸系ポリマーを貪食した肺胞マクロファージの形態変化や形質変化に関連のある遺伝子を探索する。これらの遺伝子発現変化や形態変化、形質変化を総合的に理解し、吸入性有機化学物質によって誘発される炎症の病態および機序解明を進める。
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Causes of Carryover |
今年度は、研究に大きな問題が発生せず順調に進んだため、消耗品等に少額の余剰金が発生した。試薬や消耗品が高額のため余剰金はこれらの購入に使用する。
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Research Products
(2 results)