2022 Fiscal Year Research-status Report
衛星観測データを用いた過去45年間の全球海氷生産量変動の解明
Project/Area Number |
22K18026
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Research Institution | Tomakomai National College of Technology |
Principal Investigator |
柏瀬 陽彦 苫小牧工業高等専門学校, 創造工学科, 特命助教 (80866319)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 衛星リモートセンシング / 沿岸ポリニヤ / 薄氷厚アルゴリズム / 海氷生産量 / 長期変動 |
Outline of Annual Research Achievements |
衛星マイクロ波放射計SMMRを用いた薄氷厚アルゴリズムの開発および検証を実施した。 アルゴリズム開発では、2000年代以降の南極海沿岸ポリニヤにおける衛星観測データおよびサハリン沖係留観測データを使用し、3種類の海氷タイプ(シャーベット状、板状、および両者の混合)とマイクロ波放射特性(PR、GR)との比較を実施した。比較結果からは、PR-GR平面において海氷タイプは異なる分布が示されたことから、それを利用して海氷タイプを識別する手法を新たに開発した。この海氷タイプ識別手法を、先行研究で示された海氷タイプ毎の厚さとPRとの対応関係と組み合わせるにより、低周波数チャンネルのみを用いた高精度な薄氷厚アルゴリズム(LFアルゴリズム)を開発することができた。次に、開発されたLFアルゴリズムを1991年以前のSMMR観測データに適用して薄氷厚分布を推定し、AVHRR赤外放射観測に基づく氷厚分布データと比較することでLFアルゴリズムの検証を行った。検証の結果からは、SMMR期間においてもLFアルゴリズムが最大でも5cm以下の精度で薄氷厚を推定できていることが示された。このことは、2000年代以降のデータを用いて開発したLFアルゴリズムが1978年まで遡って適用可能であることを示しており、LFアルゴリズムを用いることで、1978年から現在までの全球海氷生産量の見積もりが実現可能となった。さらに、本研究では全球海氷生産量の見積もりに不可欠である、定着氷識別アルゴリズムの開発も行った。低周波数チャンネルデータ単独では沿岸ポリニヤが定着氷として誤って識別されてしまうが、高周波数チャンネルを用いた手法による定着氷分布の気候値(1992年-2019年平均値)を取り入れることにより、1991年以前の定着氷分布を識別することが可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の大きな挑戦はSMMRにも適用可能な薄氷厚アルゴリズムおよび、定着氷識別アルゴリズムを開発することであったが、それらを実現することができた。この成果は現在、英文科学誌Journal of Atmospheric and Oceanic Technologyに投稿し、査読を受けている状況である。また、開発したLFアルゴリズムに基づいて、全球海氷生産量の変動がどのような特徴を持つかを明らかにするための解析が現在進行中である。以上より、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
開発したLFアルゴリズムを使用して、全球海氷生産量の1978年から現在までのデータセットを作成する。このデータセットには異なる衛星観測に基づく海氷生産量が含まれるため、まず初めにセンサー間バイアスの有無について検証し、必要に応じて補正する。次に、いくつかの特徴的な海域に着目し、そこでの変動について詳細を明らかにする。想定している対象海域は、(1)近年の海氷激減が顕著な北極海およびベーリング海、(2)南極底層水生成域であるロス海やケープダンレー沖、(3)氷舌の流出に伴う海氷生産量の激変が生じたメルツ氷河沖などである。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの流行により、予定していた出張ができなかったことが次年度使用額が生じた主な理由である。 次年度使用額は、研究打ち合わせの旅費および、計算機環境を充実させるために使用する予定である。
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