2022 Fiscal Year Research-status Report
凍る海の物質循環の起点を成す海氷による物質の取り込み過程の解明
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22K18027
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Research Institution | National Institute of Polar Research |
Principal Investigator |
伊藤 優人 国立極地研究所, 先端研究推進系, 特任研究員 (40887907)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 海氷 / 南極地域観測隊 / 南大洋 / オホーツク海 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の初年度にあたる2022年度においては、主には (1)国立極地研究所の低温実験室の整備および海氷解析拠点としての稼働、 (2)第64次南極地域観測隊での海氷・海洋観測、 (3)過去の南極観測等で得られたデータの解析作業、の3点である。1点目について、国立極地研究所の設備である低温実験室の1室にて、低温下での海氷サンプルの解析・分析に必要な器具の準備、それらの低温下での動作確認を行った後、実際に海氷を用いた解析作業を通して、低温下での海氷解析が滞りなく実施できることを確認した。2点目については、隊としての観測活動期間だけで2022年11月初旬から翌年3月末までの5ヶ月におよぶ第64次南極地域観測隊に参加し、リュツォホルム湾やその周辺域、およびトッテン氷河沖海域での海氷サンプリングなどの海氷・海洋観測を実施した。本観測行動においては、日本の南極観測では初となる海氷ゴンドラを用いた海氷採取(砕氷艦しらせより2人の観測者が登場したゴンドラを海氷上に降ろして海氷コアを採取する観測)を始めとして、南大洋の複数点より海氷サンプルを採取した。3点目は、2018年2月に第59次南極地域観測隊の観測行動において南大洋・ケープダンレー沖の海域で採取された海氷サンプルおよび2022年3月にArCS II北極域研究加速プロジェクトなどの研究課題との連携で北海道オホーツク海沿岸域より得られた海氷サンプルの解析・分析である。主には国立極地研究所での海氷の層構造の解析や、海氷内部に含まれる粒子状物質(堆積物粒子や植物プランクトンなど)の分析結果を解析した。特に、南大洋の海氷サンプルについては、良好な解析・分析結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では海氷サンプルの解析・分析を通じた海氷内への粒子状物質の取り込み過程の解明を目指している。この目的の達成のために、(1)海氷の解析を行う低温実験室の整備、(2)解析・分析を施す海氷サンプルの採取、(3)採取した海氷の解析・分析の実施、の3つのステップを踏む計画である。2022年度における各項目の状況は以下の通りである。 (1) 国立極地研究所の低温実験室にて、海氷サンプルの解析に用いる機器の設置や、低温環境での動作確認などを行った。その結果、自身の所属機関において、層構造解析などの海氷の解析作業が実施可能な環境が整った。 (2) 2022年度は第64次南極地域観測隊へ参加し、海氷採取などの海氷・海洋観測を南大洋のリュツォホルム湾およびトッテン氷河沖海域で実施した。本観測では、砕氷艦しらせからの海氷ゴンドラを用いた海氷コア採取など、日本の南極観測で初となる海氷観測手法を試験的に複数取り入れ、それらが海氷観測に有効であることを確かめたとともに、南大洋での複数海域での海氷サンプル採取に成功した。 (3) (1)に述べた国立極地研究所の低温実験室の海氷解析拠点としての立ち上げが完了したことから、2022年3月にオホーツク海で採取した既存の海氷サンプルの解析(層構造解析)を実施した。また、2018年2月に南大洋で採取し(第59次南極観測隊での海氷観測による)、既に層構造解析などを終えていた海氷サンプルについて、層構造解析の結果と海氷内の含有粒子の分析結果などを総合的にまとめた。その結果、海氷の成長履歴を反映する層構造の解析と、その各層内の含有粒子の分析とを併せたデータの解析が、本課題の研究目的である、海氷による粒子状物質の取り込み過程の解明に対しての有効な手段のひとつであることが確かめられた。現在は国際誌への論文投稿にむけて、この結果をまとめている段階である。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度の研究の進め方については次の通りである。 (1) 研究成果の公表:2018年に南大洋で採取した海氷サンプルの層構造の解析および含有粒子の分析の結果について、論文にまとめて国際誌に投稿予定である。 (2) 既存のサンプルの解析・分析:2022年にオホーツク海で採取した海氷サンプル(既に層構造の解析が終了している)について、コールターカウンターを用いた含有粒子の測定を実施する。また、第64次南極地域観測隊で2022年12~2023年3月にかけて南大洋で採取した海氷サンプルの層構造(成長履歴)の解析を国立極地研究所の低温実験室にて実施する。 (3) 海氷採取を目的とする現場観測の実施:本研究では海域によらない普遍的な海氷による粒子状物質の取り込み過程の解明を目指しており、このためには南大洋・北極海・オホーツク海などの複数海域において、多様な海氷状況下で採取した海氷サンプルの解析・分析が必要となる。南大洋・北極海・オホーツク海では過去の観測によって既に海氷サンプルが得られているが、一度の観測で得られる海氷サンプルの量や、出くわす海氷状況の数には限りがある。そのため、2023年も海氷観測を実施して、海氷サンプルの採取を試みる。具体的には、自身の所有する海氷サンプルについて、最も数の不足している北極海におけるサンプルを得るために、アラスカの最北部であるUtqiagvik周辺にて海氷採取を目的とした海氷観測を実施する。また、2022年度に導入した新しい海氷観測手法が活かせる南大洋においても、第65次南極観測地域観測隊へと参加し、海氷サンプルの採取を実施する予定である。
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Causes of Carryover |
2022年度においては、新型コロナウイルス感染拡大の影響で外部機関への出張を伴うサンプル分析が制限された。また、南極地域観測隊の観測行動について、例年は11月の末または12月の始めに日本を出国するが、新型コロナウイルス感染対策としての出国前の国内ホテル隔離の実施や出国時期そのものが早まるなどの措置が執られた。これにより、サンプル分析などに携われる時間そのものが当初計画よりも縮小される影響が出た。そのため、計画していた出張旅費やサンプル分析に関わる物品購入費や輸送費などが未使用となった。2022年度に実施できなかったサンプル分析については、2023年度(本年度)に可能な限り実施を予定しており、主に出張旅費や物品の購入、サンプル輸送費などにおいて、2022年度予算の2023年度への繰り越しが必要となる。
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