2023 Fiscal Year Research-status Report
凍る海の物質循環の起点を成す海氷による物質の取り込み過程の解明
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22K18027
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Research Institution | National Institute of Polar Research |
Principal Investigator |
伊藤 優人 国立極地研究所, 先端研究推進系, 特任研究員 (40887907)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 南大洋 / チュクチ海 / 海氷 / 南極地域観測隊 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度の本研究課題においては、(1) 2018-19年および2022-23年に実施した第59次、第64次南極地域観測隊での観測による海氷サンプルの解析、(2) 2023年5月中旬にアラスカの定着氷域での海氷観測を実施、(3) 2023-24年に第65次南極地域観測隊での海氷観測を実施、の大きく3点である。 (1) について、鉛直方向の総延長が約 55 m にも及ぶ海氷試料を低温実験室にて解析し、海氷の成長過程の特定や基本物理量(塩分、密度など)の測定を行った。この解析に基づいて(3)に挙げた第65次南極地域観測での観測点を選定した。また、低温実験室での解析が終わった一部の試料については、コールターカウンターによる含有粒子の粒径分布の測定も行った。 (2) について、海洋研究開発機構およびアラスカ大学フェアバンクス校と協力し、アラスカ沿岸(チュクチ海)の定着氷にて海氷サンプルの採取などを目的とする氷上海氷観測を実施した。採取した海氷については、(1)と同様に低温実験室での解析およびコールターカウンター分析を実施した。 (3) 2023年11月末から翌年3月末までの4ヶ月にわたり、第65次南極地域観測隊にて南大洋での海氷観測を実施した。観測は主に海氷サンプルの採取を目的としたもので、昭和基地のあるリュツォ・ホルム湾内の定着氷・流氷域やトッテン氷河沖の定着氷域で実施した。南極地域観測の実施に先立って、2023年5月頃より、観測に関わる各種訓練や観測機材などの準備、砕氷艦「しらせ」の訓練航海(本航海前の事前航海)での船上観測に関わる訓練を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の活動の大きなウェイトを占めたものが、第65次南極地域観測隊での観測活動である。観測の本行動だけでも11月末から3月末までの4ヶ月におよび、事前に9月に2週間ほど行われた砕氷艦「しらせ」による船上観測訓練航海への参加、5月頃より開始される観測隊全体での各種訓練・調整事項に加え、観測に向けての機材の準備や、個観測チーム内での訓練などをあわせると、観測隊での行動はほぼ1年にわたる。本観測においては、観測隊や砕氷艦「しらせ」の協力もあり、昨年度の第64次隊での観測行動よりも更に広範囲に渡って海氷サンプルの採取に成功した。 南極観測の実施に加えて、5月にはアラスカ沿岸の定着氷域にて1週間程度の氷上観測を実施し、数カ所の観測点においてサンプル採取に成功した。南北の両極でのサンプル採取に成功し、海氷への物質の取り込みについて一般的な理解の構築を目指す上で重要な観測になったと考えている。 上記の観測行動の他に、2018年度の第59次、2022年度の第64次南極観測、2023年のアラスカ観測にて得られた海氷試料について、低温実験室での解析作業が完了した。第64次南極地域観測隊分ついては、鉛直方向の総延長が 55 m にも及ぶサンプルを解析した。解析結果の科学的な評価は今後の作業となるが、第65次南極地域観測の本行動の実施前にサンプル解析が終了したことで、65次隊での観測場所の選定や科学的な狙いの追加設定において強く貢献した。 第59次南極地域観測隊およびアラスカ観測でのサンプルについては、コールターカウンターでの含有粒子の分析も完了した。このうち、前者(南極観測)のサンプルの解析・分析結果からは、新成氷による植物プランクトンの取り込みに関する重要な知見が見出された。この知見については、国際誌への論文投稿の準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度、2023年度における本研究課題については、2回に渡る南極地域観測隊への参加やアラスカでの氷上観測など、海氷サンプルの採取を目的とした観測の実施に重点を置いてきた。本年度 (2024年) については、それらの観測で採取したサンプルの解析・分析を完了させ、その結果から得られる知見について国際論文などにまとめることに重きが置かれる。 解析・分析の完了した第59次南極地域観測隊でのサンプルについては、今年度の前半には論文投稿に至るように準備を進めている。この分析・解析の結果について、第59次隊で実施した海洋観測(係留観測)の結果との比較により更なる現象の理解が進む可能性が見出されており、当初の計画に加えて、海洋観測データの解析も検討している。 2023年に実施したアラスカ観測からのサンプルも既に全ての解析・分析が完了した。この観測については、1回に実施できる観測から得られる知見には制限があるが、過去に数回実施した観測の結果と併せることで一般的な議論へと進展させることが可能である。そこで、アラスカや国内の研究者と協力し、今までに実施した全ての観測結果を評価して、国際誌への論文投稿を進める予定である。 第64次、第65次南極地域観測で得られたサンプルについては、まずは全ての解析・分析項目を完了させる。これらのサンプルは、おもに静穏な環境で成長する海氷である。現状の理解からは、海氷による物質の取り込みに対しては擾乱環境下での海氷生成・成長が重要と考えられているが、今回のサンプルの解析・分析結果からは、それが全く生じなかったケースにおける知見が得られると考えている。また、物質循環の視点のみではなく、南極沿岸域での一般的な海氷成長の理解が得られる重要なサンプルであるとも考えており、この視点からの結果の評価も行う予定である。
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Causes of Carryover |
第65次南極地域観測の実施にあたり、海外製の観測機材の購入を予定していた。しかしながら、製品価格や輸送費の高騰により、本研究予算での購入を断念したことが、次年度使用額が生じた主な理由である。ただし、国内の研究者の協力により当該機材が借用できたため、代用品の購入などの対応をせずに観測を遂行することができた。 第64次、第65次南極地域観測では観測計画当初に想定していたよりも多くのサンプルが得られた。そのため、解析や分析に関わる消耗品の購入費用や、分析のための旅費については、想定よりも多くなる見込みである。2023年度の未使用額については、これらの経費にあてて使用する予定である。
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Research Products
(1 results)