2022 Fiscal Year Research-status Report
高次元クロマチン損傷を対象としたヌクレオチド除去修復機構の分子基盤の解明
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22K18034
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松本 翔太 東京大学, 定量生命科学研究所, 助教 (10880643)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | DNA修復 / ヌクレオチド除去修復 / NER / XPC / TFIIH / XPA / ヌクレオソーム / クロマチン |
Outline of Annual Research Achievements |
ほ乳類のヌクレオチド除去修復(NER)は紫外線などによって生じたDNA損傷を取り除く、重要なDNA修復機構の一つである。ゲノム全体を対象としたNERでは、まずXPC複合体が損傷を認識することが必須であり、その後XPA、TFIIHをはじめとするNER因子群がリクルートされ、これらの働きにより損傷が切り出される。生化学的な実験により、詳細なNER機構の全容が明らかになりつつあるが、細胞内におけるNERについては不明な点が多く残されている。特筆すべきは生物のゲノムがとるクロマチン構造というユニークなDNA格納様式である。真核生物のゲノムDNAはヒストンタンパク質に高度に折り畳まれたクロマチン構造を構成することがわかっており、タンパク質がDNAへアクセスする際に空間的な制限を受けている。そのためヒストンフリーなDNAを基質として進めてきた生化学解析では、細胞内で起こるNERの全容を理解することが難しい。そこでクロマチン上の損傷に対するNERを理解することが期待されている。 そこで研究代表者はクロマチン構造の最小単位であるヌクレオソームを試験管内で再構成することで、ヌクレオソーム上の損傷に対するNERを明らかにすることを目指した。まずDNAに紫外線損傷や損傷をミミックした構造体を化学合成し、これを元にヌクレオソームを再構成することで、ヌクレオソームの任意の位置に損傷をデザインする系を確立した。続いてNERタンパク質を試験管内再構成系に使用するため、NER因子であるXPC複合体、XPA、TFIIHをそれぞれ発現するバキュロウイルスシステムを構築した。これらを用いることにより、ヌクレオソーム上の任意の位置の損傷に対するNER機構を試験管内で再現することを目指した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究を遂行するため、任意の位置に損傷を導入したヌクレオソームの再構成を試みた。まずはXPC複合体によって認識されることがわかっているミスマッチからなるバブル構造を設計した。これをオリゴの任意の位置に入れて合成を行い、バブル構造を含むDNAを精製した。このDNAと、大腸菌から発現・精製したヒストンタンパク質とを混ぜ合わせることにより、損傷を含むヌクレオソームを再構成することに成功した。一方、NER因子についてはバキュロウイルスを用いた昆虫細胞発現系により精製を行った。XPC、RAD23B、centrin2からなるXPC複合体、XPA、TFIIHをそれぞれ精製した。ここで再構成した損傷ヌクレオソームと、精製したNER因子を混ぜ合わせることにより、NER因子の損傷ヌクレオソームに対する結合試験を行った。その結果、損傷をヌクレオソームの外側にデザインしたヌクレオソームではXPC複合体の結合が見られた一方、その結合力は損傷の位置や種類に依存することが示唆された。 XPC複合体はさまざまな因子と強調して機能する可能性が指摘されているものの、それらの相互作用因子についての直接的な機能は不明なままである。そこで、次にXPC複合体と相互作用する因子の探索を行った。複数の指摘されている因子を共発現することにより、従来のXPC複合体よりも分子量の大きい複合体を調製・精製することに成功した。この複合体は新規相互作用因子を含む新たなXPC複合体として機能する可能性が考えられるため、今後この巨大複合体の酵素活性や修復における役割を明らかにしていくことを目指す。 一方でXPC複合体の下流因子と損傷ヌクレオソームの関係性については、まだ実験を遂行するに至っていないため、進捗状況としてはやや遅れていると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度で必要な損傷ヌクレオソームや、NER因子を組換えタンパク質として精製することに成功した。次にこれらを使用した結合試験を実施していく。XPC複合体の損傷ヌクレオソームへの結合構造については引き続き解析を進めていくことで、XPC複合体がどのようにクロマチン上の損傷を修復しているかを明らかにする。さらにXPCがヌクレオソーム上の損傷に結合するだけでなく、下流の因子への適切な損傷受け渡しが行われるかどうかについて調べていく。具体的には損傷ヌクレオソームとXPC複合体をあらかじめ結合させておき、そこにXPAやTFIIHを加えることにより、どのような構造で結合するかどうかをクライオ電子顕微鏡(cryo-EM)による構造解析により明らかにする。 続いて損傷ヌクレオソームの上流にバブル構造をデザインすることにより、XPCの本来の基質ではない紫外線損傷の認識を促進できる可能性が指摘されている。このような損傷の種類と位置を自在にデザインすることにより、XPCのさまざまな損傷への結合様式や能力の限界などを調べていく。これらの実験によりXPCの修復開始因子としての役割を明らかにすることを目指す。さらにこれら損傷ヌクレオソームへの認識機構を詳細に調べるため、XPC複合体の下流因子XPAやTFIIHとの強調的な役割についても明らかにしていく。これらの実験系によりXPCをはじめとするNER因子がヌクレオソーム上の損傷に対してどのように修復反応を開始しているのかを理解し、クロマチン上のNERの全容解明へと繋げていきたい。
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