2022 Fiscal Year Research-status Report
ベトナムにおける「サイゴン・ノスタルジー」ブームの生成過程に関する研究
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22K18087
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大泉 さやか 東京大学, 教養学部, 特任講師 (50826740)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ノスタルジー / 記憶 / 分断国家 / 冷戦 / サイゴン |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、国家の公定的な南ベトナム認識の変化、政策面での規制緩和が「サイゴン・ノスタルジー」ブームの生成にどのような影響を及ぼしているかを研究した。当初の予定通り、アメリカとの外交関係、在外ベトナム人に対する政策、ベトナム史の教科書、研究書における南ベトナムの語り方の変遷、「サイゴン・ノスタルジー」を表現した出版物、音楽、映画等の流通状況、作品への評価に関する資料収集を主に行った。 2022年度には、ベトナムにおいて映画法の改正があった他、南ベトナム時代に活躍した作詞作曲家を主人公とした映画が公開され、規制緩和が進む状況をリアルタイムで観察することができた。そして、ハノイ市、ホーチミン市での資料収集(2023年3月8日から3月23日)を通して、2014年の第2公文書館(南ベトナム時代の政策文書等を保存)の資料に関する学術シンポジウム、2017年の史学院(国立の研究所)編集のベトナム通史『ベトナム歴史』の出版と時期を同じくして、他の出版物でも南ベトナム時代のサイゴンに関する言及が増えていること、同時期の対米関係の急速な発展と対応している可能性が高いこと、2010年代半ば以降に出版された南ベトナム時代のサイゴンに関するエッセイの中でも、最近の出版物では語ることができる内容の幅が広がったこと等を確認できた。 『現代ベトナムを知るための63章【第3版】』(岩井美佐紀編著、明石書店)において、2つの章を担当し、社会主義ベトナムにおける歴史認識と文化政策に関する論考を発表することができた。また、2023年度に出版される史学会の『史学雑誌』において、2022年度の研究動向等をまとめる中で、近年、いわゆる「新冷戦」を背景として冷戦期の東南アジアに関する研究が英語圏において増加していることがわかり、冷戦期に関する記憶を扱う本研究が、近年の研究動向から見ても意義のあるものであると再確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
特に2023年3月の資料収集を通して、「サイゴン・ノスタルジー」ブームの生成の契機に関する資料を順調に集めることができた。同ブームが顕在化する2010年代半ばの状況を確認できた他、外交、建築、仏教、カトリック等、特定の分野に特化して書かれた「サイゴン/ホーチミン市史」の比較により、南ベトナム時代のサイゴンを語ることが可能になっていった過程を追うこともできた。「サイゴン・ノスタルジー」を表現した出版物、音楽、映画等に対する規制緩和が一段と進んでおり、研究を計画した当初の予想以上に研究対象とすべき作品や現象に広がりが見られることが明らかとなった。 発表、執筆した研究成果としても、ベトナムにおける歴史認識の問題、東南アジア史研究における歴史認識に関する研究動向を議論することができ、今後の研究の基礎とすることができた。 当初の予定では2022年8月あるいは9月にも渡航予定であったが、新型コロナウイルス感染症パンデミックの影響が残っていたため、2023年3月のみの渡航となった。その分、1回の渡航の期間を長くし、現地での資料収集に十分な時間を割くことができたため、実質的に影響はなかったと考えている。 このように順調に研究が進展しているため、上記の区分を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、当初の予定通り、「サイゴン・ノスタルジー」を表現した出版物、音楽、映画などにおいて、流通が許可されるよう、制作者側が語り方、表現方法を調節する自主規制はいかに行われているかを考察する。2023年8月または9月、2024年2月または3月にホーチミン市、ハノイ市へ渡航する。ベトナム国家図書館、南部社会科学院図書館、ホーチミン市総合図書館等で資料収集を行い、2022年度に収集した作品の著者、製作者が作品について語った記事等を重点的に収集する。ホーチミン市においては「サイゴン・ノスタルジー」関連のイベントにおける参与観察も行いたい。調査許可が出れば、「サイゴン・ノスタルジー」関係の出版物を多く発行している出版社に対するインタビューを試みたい。 計画通り、2024年度はベトナム本国で表現される「サイゴン・ノスタルジー」は、(「難民」として海外に定住した)在外ベトナム人のコミュニティにおいて表現されるサイゴンへのノスタルジーといかなる相違、往還があるか、2025年度は南北分断期を直接経験していない世代(1970年代後半以降生まれ)、ベトナム北部でも「サイゴン・ノスタルジー」が受容され、人気を得ているのはなぜかを研究する。
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Causes of Carryover |
当初、2022年度中に2回、ベトナムへ渡航することを計画していたが、2022年度夏の時点では新型コロナウイルス感染症パンデミックの影響が残っていたため、1回の渡航となり、残額が生じた。この分は2023年度の渡航期間を当初の予定よりも延長するために使用する。
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Research Products
(3 results)