2023 Fiscal Year Research-status Report
ベトナムにおける「サイゴン・ノスタルジー」ブームの生成過程に関する研究
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22K18087
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大泉 さやか 東京大学, 教養学部, 特任講師 (50826740)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 分断国家 / ベトナム / 記憶 / サイゴン / ノスタルジー |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は当初の予定通り、「サイゴン・ノスタルジー」を表現した出版物、音楽、映画などにおいて、流通が許可されるよう、制作者側が語り方、表現方法を調節する自主規制はいかに行われているかを中心に考察した。加えて、国家の公定的な南ベトナム認識の変化に関する追加の資料収集も実施した。具体的な活動としては、2023年8月25日から8月29日、9月3日から9月9日、2024年2月25日から3月4日の間、ホーチミン市およびハノイに出張し、資料収集や観察を行った。それ以外は国内において、資料の読解等を行った。 2023年度の研究を通して、1点目に、2010年代以降、南ベトナム時代について肯定的な評価ができるようになった要因として、対米関係、在外ベトナム人との関係の改善・接近だけでなく、南シナ海問題をめぐる対中関係も関わっていることが新たにわかった。2点目に、「サイゴン・ノスタルジー」を表現した出版物、音楽、映画等では、南ベトナム時代であることに言及しない、または南ベトナム時代を象徴する事物を社会主義ベトナム的なものに置き換えるという方法で政治問題化を避ける傾向があることが明らかになった。3点目に、「サイゴン・ノスタルジー」ブームは、古書や古物の収集とその披露(骨董市)の形でも広がっていることを調査できた。 成果物としては、『史学雑誌』に、2022年度における東南アジア史研究の動向をまとめた論考を掲載することができた。東西冷戦時代の東南アジアに関する注目が高まっていることを指摘したが、その流れの中で本研究の意義も高めることができると考えられる。これ以外には、昭和女子大学において行った発表において、南ベトナム時代のアオザイに対する今日の評価に言及した。アウトリーチ活動としては、同大学の学生と企画した映画鑑賞会の中で南ベトナム時代を扱った映画を取り上げ、解説を作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度は新型コロナウイルス感染症の流行も収束し、ベトナムへの渡航も予定通りにできた。研究活動の結果、次のように成果発表への道筋が見えているため、上記の評価とした。2023年度の研究によって、なぜ2010年代から「サイゴン・ノスタルジー」ブームが起きているのか、南ベトナム時代について積極的に評価することができるようになったのかは、対米関係、在外ベトナム人との関係だけでなく対中関係からも説明ができることがわかった。また、「サイゴン・ノスタルジー」を表現する際に、政治問題化を避けるための手法、傾向を類型化して把握することができた。これらの成果は今後、論文としてまとめることができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、当初の予定の通り、ベトナム本国で表現される「サイゴン・ノスタルジー」は、(「難民」として海外に定住した)在外ベトナム人のコミュニティにおいて表現されるサイゴンへのノスタルジーといかなる相違、往還があるかを調査するため、アメリカへの渡航を計画する。加えて、2024年度に研究した内容のフォローアップとして、ベトナム国内、特に南部における出版事情についても追加で調査を行いたい。 2025年度は、南北分断期を直接経験していない世代(1970年代後半以降生まれ)、ベトナム北部でも「サイゴン・ノスタルジー」が受容され、人気を得ているのはなぜかを研究することになっているが、2023年度の調査でも、「昔のサイゴン」をコンセプトとしたあるカフェの創設者がベトナム戦争以降の生まれであることがわかっている。これまでに得たヒントを基に調査を進められるのではないかと考えている。
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Causes of Carryover |
入手を計画していた一部の洋書について、注文をしたものの、入手が不可能であることが年度末直前になって判明し、キャンセルとなったことが主な理由である。次年度使用額については、別の書籍の購入に充てることとしたい。
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