2023 Fiscal Year Research-status Report
高空間分解能を持つ細孔型マイクロパターンガス検出器の開発
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22K18125
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
森谷 透 山形大学, 理学部, 助手 (40732392)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 中性子イメージング検出器 |
Outline of Annual Research Achievements |
中性子はその平均寿命の測定や電気双極子能率の測定など、「標準理論を超える物理」を実験的に検証する方法として利用されている。一方、中性子は元素の原子核と相互作用を起こし、核特有のコントラストを持つ透過像や中性子の散乱・回折パターンを提供する。例えば中性子はH, B, Liなどの軽元素の反応断面積が、Fe, Cu, Pbなどの重元素と比較して大きく、X線とは逆の傾向がある。このため中性子線の物質の透過像を用いた中性子イメージングは、重金属容器中の水や有機物など含水素物質の検出に有効で、高度経済成長期に大量に建設された高架道路や橋、またロケット部品などの大型構造物内部の状態を確認することができる。また、燃料電池内のLiや水分子の移動を可視化する非破壊検査などに大きな期待が寄せられている。したがって、優れた空間分解能と汎用性を併せ持つ中性子イメージング検出器の必要性が高まっている。 我々は、薄いガラスに細孔が規則正しく空いたガラスキャプラリープレート(CP)を用いて、微細な電極構造を持つマイクロパターンガス検出器(MPGD)の開発を進めてきた。本研究では、これまでにない高い空間分解能(50 um)を持つ中性子イメージング検出器の実現を目的に、細孔径が25 umでその表面にファネル構造を施したCPを持つ新しいMPGDを開発する。そして、中性子変換材と封入する混合ガスの研究も併せて行い、開発した中性子イメージング検出器の実験現場での研究利用を目指す。 本年度は、細孔径が25 umでその表面にファネル構造を施した新型のCPの開発を行った。また、新型CPを搭載するための実験チェンバーの改良を進めた。これらの新型CPの基礎特性試験を行い、ビームラインでの中性子透過画像取得を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、高エネルギー物理学実験や宇宙X線偏光度観測用に開発を行ってきた微細な電極構造を持つマイクロパターンガス検出器(MPGD)を用いて、優れた空間分解能(50 um以下)を持つ中性子イメージング検出器の開発研究を行うことである。MPGDは、微細加工技術や半導体製造技術を用いて製作した微小な電極から構成されるガス放射線検出器の一つで、優れた空間分解能と高い時間分解能、そして高計数率での動作が特徴である。 山形大学がこれまで世界に先駆けて開発を進めてきたMPGD の一つであるガラスキャプラリープレート(CP)は1 umから500 umのガラスの毛細管(キャピラリー)を規則正しく二次元配列し、0.2 mm から1 mm の厚さにした、円形または角形の板状構造のガラスプレートである。CPの上面と下面に金属電極を施し、Ne/CF4混合ガスを1気圧封入したガスチェンバー中に設置する。検出器の入射窓部には、中性子変換材となる10B4Cが蒸着されている。中性子と10Bの相互作用により発生したα粒子または7Liは、ガス中を通過する際に一次電子を生成する。この一次電子をCPの細管内に導き、管内部で電子増殖および光増殖を起こさせ、 その光信号を読み出す。 本年度は、細孔径が25 umでその表面にファネル構造を施した新型のCPの開発を行った。また、新型CPを搭載するための実験チェンバーの改良を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
10B4C層を薄く蒸着したSi基板をCP上面に直接密着させてBe窓を持つステンレスチェンバーに設置し、Ne/CF4 またはAr/CF4混合ガスを1気圧封入し、細孔型マイクロパターンガス検出器(MPGD)として動作させる。中性子と10Bとの反応で生成した一次電子をCPの細管内に限定し、管内部で電子増殖および光増殖を起こさせ、その光信号をCMOS/CCDカメラで撮像することで、50 um以下の高空間分解能を実現する。 そこで、本研究ではまずファネル構造を持ち、その穴径が25 umでピッチが30 umのCPを、共同研究の実績がある浜松ホトニクス株式会社電子管事業部の協力により製作する。そして、ファネル型CPをステンレスチェンバーに設置し、Ne/CF4混合ガスを1気圧封入して細孔型MPGDとして動作させ、本学に設置したマイクロフォーカスX線発生装置でガス検出器としての基礎特性試験を行う。特性試験の結果を有限要素法電場解析ソフトMaxwell-3Dとガス中での電子イオン追跡シミュレーターGarfield++を用いて評価し、細孔型MPGDの構造、配置、印加電圧そして封入ガスの圧力など、検出器の最適化を行う。 X線ビームでの試験が終わり次第、利用実績のある京都大学研究用原子炉(KUR CN-3)および日本原子力研究開発機構(JRR-3M MINE)の各ビームラインに装置を持ち込み、熱中性子および冷中性子ビームを照射し、空間分解能の評価試験の他、エネルギーの違いによる検出効率の評価、施設によるn/ガンマ比の特性実験を行う。中性子照射によるCMOS/CCD素子の損傷を軽減させるために、これまでの光学系に反射ミラーを追加した中性子イメージング検出器システムを構築する。また、中性子変換材の材質と厚みの最適化を行い、検出効率の性能向上を目指す。
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