2022 Fiscal Year Research-status Report
永久電気双極子モーメント探索に向けた高輝度Fr原子線源の開発
Project/Area Number |
22K18126
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長濱 弘季 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (00804072)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 低エネルギーイオンビーム / イオンビーム質量分離 / 磁気光学トラップ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究において、加速器を用いて生成したフランシウム(Fr)原子を高効率で磁気光学トラップで捕獲する装置を開発することで、高精度で電子EDM探索を行う基盤を作る。 当該年度では、加速器で生成したFrを一価の陽イオンビームとして引き出し、さらにビームエネルギーを100eVという低エネルギーで中性化標的のイットリウム箔に照射することに成功した。また、ビーム輸送系の電極に交流電場を印加することで、ビーム中に含まれる不純物を約70%減らすことができ、イオン光学シミュレーションと概ね一致することを確認した。以上により、ビーム不純物によるイットリウム箔表面汚染を抑制し、また、Frイオンを低エネルギーで照射することで、箔表面近傍にFrイオンを付着させることができた。イットリウム箔を加熱することにより、電子再結合反応で中性化したFr原子を箔表面から脱離させ、磁気光学トラップへと輸送するが、その中性化および脱離効率は、イットリウム箔の表面状態に強く依存する。また、脱離に必要な温度は、Frが箔表面に近いほど低くなることがわかっており、なるべく低温で加熱することで、磁気光学トラップセルの真空度悪化を抑制することが、トラップ効率を高める上で重要である。 イットリウム箔は大気中で安定な酸化膜を約120層形成することが知られており、さらにその上に、汚れの層や吸着分子膜の層を形成している。これらの層をアルゴンイオン銃によるスパッタリングで予め除去することで、本来の純粋なイットリウム層を露出させ、Fr原子の中性化・脱離効率を最大限高めることに成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度では、従来のビームエネルギー(1keV)の10%のビームを高効率にイットリウム箔まで輸送することに成功した。また、Fr生成源の金標的近傍に設置された2つの偏向電極に、逆位相の交流電場を印加するための回路を設計・開発した。交流電場の振幅・周波数・位相を最適化することで、ビーム中に含まれる不純物をおよそ70%減少させたことを確認した。さらに、イットリウム箔表面にある酸化膜層などの不純物層を、アルゴンイオン銃を用いたスパッタリングで除去することに成功し、箔表面に付着したFr原子のうち30~60%を300℃という比較的低温の加熱で脱離させることが出来た。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後、イットリウム箔の表面清浄化を推進するために、アニーリング処理を検討する。さらに、イットリウム箔から脱離したFr原子のうちキャピラリーを通過した個数を測定する装置、およびFr原子を捕獲するための磁気光学トラップセルを開発する。セル内壁にはFr原子の吸着を防止するコーティングを施す必要があり、コーティング材として、パラフィン、OTS、PDMSなどが有力候補である。これらの材料を真空蒸着によりセル内壁にコーティングするための装置を開発する。
|
Causes of Carryover |
既存のビーム輸送系を用いることにより、低エネルギービーム輸送は実現できたが、エミッタンスが大きかったため、ビーム偏向電極や収束電極を改造し、エミッタンスを小さくする必要がある。この改造を2022年度中に施すことができなかったため、次年度以降に延期することにした。また、イットリウム箔のアニーリングを行うためには、箔を700℃以上に加熱することが必要だが、箔を固定するための治具の耐熱性を改善する必要があることが発覚したため、1kW 赤外線ヒーター一式の購入を見送った。 2023年度は、これまで実現してきた低エネルギービーム輸送およびイットリウム箔表面のスパッタリングの効果をより詳しく調べるため、イットリウム箔から脱離してキャピラリーを通過したFr原子の個数を測定する装置を開発する。個数を最大化するために、適宜、ビーム輸送系の改造およびイットリウム箔のアニーリング計画を進める。また、Fr原子を捕獲するための磁気光学トラップセルの開発、そしてセル内壁にFr原子吸着防止コーティング材を真空蒸着させるための装置の開発を行う。
|