2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K18359
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
加藤 貴之 大阪大学, 蛋白質研究所, 教授 (20423155)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松本 篤幸 京都大学, 医学研究科, 特定准教授 (00753906)
宮ノ入 洋平 大阪大学, 蛋白質研究所, 准教授 (80547521)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | クライオ電子顕微鏡 / 単粒子解析 / NMR / ハイブリッド構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年クライオ電子顕微鏡による構造解析の分解能は飛躍的に改善し、構造生物学において欠かすことのできない手法に成長した。特に大きな複合体や柔軟な構造を持つような分子には第一選択的に用いられ、創薬にも用いられるようになった。しかし、部分分解能に関しては必ずしも高くなく、溶媒に面している領域では側鎖まで可視化できることはそれほど多くない。一方NMRは構造解析の手法としては溶液中の運動性を評価で利点を持っているが、大きな分子には構造解析できないことや同位体ラベルする必要性があることなど欠点を持つ。 しかしこの2つの技術は互いに補うことが可能であり、クライオ電子顕微鏡で主鎖構造を、NMRで側鎖の相対的な位置を解析できれば、運動性を含んだ高分解能な構造解析が可能である。 昨年、NMRの試料調製の困難さ、煩雑さを避ける目的で、同位体ラベルをせずにHのみのシグナルから原子間の距離情報を取得する方法を模索した。同位体ラベルなしの場合、クライオ電子顕微鏡での観察試料をそのままNMR測定に持ち込むことができるため、利便性が高く汎用性を求めるためには必須である。Hは蛋白質を構成する分子としては最も多く、シグナルが非常に多く観察される上に互いに重なりあうことで、そこから構造解析に重要な距離情報を取得することは不可能である。しかし、フェニルアラニンやトリプトファンなど芳香族アミノ酸に由来するHのシグナルは他のアミノ酸由来のHのシグナルとは異なる化学シフトを持つため、分離が可能で、そこを基軸に他のアミノ酸との距離情報取得の所得の可能性が見出された。そこで、NMRのミキシングタイムを様々に変える事によって芳香族アミノ酸からの一定距離に存在するアミノ酸からのシグナルを取り出すことに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
クライオ電子顕微鏡による構造解析は現在ルーチン化しており、試料さえ安定に精製できれば構造解析は比較的容易である。特に主鎖構造に関しては原子分解能を要求されないため、かなりハードルは低い。 その一方で、NMRはそれ単体で構造解析するにはさまざまな工夫と労力が必要となる。そのため特にNMRでは可能な限り簡便に、必要な情報だけを効率よく取り出す工夫が必要となる。同位体ラベルをしない試料はクライオ電子顕微鏡で観察した試料をそのまま使えるためにNMRでの構造解析に必要な労力を極力減らすことができる。そのため、Hからのシグナルだけで距離情報を得る手法を模索した。芳香族アミノ酸からのシグナルは他のアミノ酸からのシグナルとは別の範囲に存在するため、芳香族アミノ酸を中心として、特定の距離にあるシグナルを取り出すことに成功したものの、Hのシグナルが非常に多く互いに重なり合っていることから、シグナルの同定は極めて困難になっている。機械学習による同定についても検討したが、運動性の高いアミノ酸のシグナルが問題をより複雑にしており、Hからのシグナルを使った構造情報の取得は極めて困難であると結論付けた。
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Strategy for Future Research Activity |
この研究では特にNMRの情報をいかにうまく使うかが1番の鍵となる。すでにクライオ電子顕微鏡によって構造解析された主鎖構造を制約条件にすることで、側鎖の情報だけをNMRで取得することで十分に高分解能な解析が可能となる。Hからのみのシグナルでは情報量が多く、1つの解を導くことは極めて困難であることが解ったため、本年度は選択ラベルを積極的に利用し、シグナルの重複を避けながら構造情報を取得する。NMRでの解析の場合、そのシグナルがどのアミノ酸由来かを知るための帰属が必須になるが、それをクライオ電子顕微鏡の構造を使って制限しながら帰属しつつ、距離情報を所得し、構造のリファインを同時に行う強化学習アルゴリズムを開発する。
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Causes of Carryover |
NMR測定では同位体ラベルなしの測定を行い、重複するシグナルからどのようにして効率的に必要な情報を取得できるかを検討した。検証実験のために既知の試料としてTET2を利用したところ、芳香族アミノ酸のシグナルは他のアミノ酸とは分離して情報を取り出せることが解ったものの、それ以上の情報を取得することは困難だと結論付けた。今後は選択ラベル体を利用するように方針を変更したが、それを決定するための必要な実験に長い時間を費やし、当初の予定よりも少ない予算の利用となった。今後は選択ラベル体の作製と計算に費用と時間がかかるため、繰越した予算は選択ラベル体と解析用コンピューターの予算に充てる予定である。
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