2022 Fiscal Year Research-status Report
「楽しく豊かな生活」の実現に向けた「創造的生活学」の理論的・実践的モデルの構築
Project/Area Number |
22K18445
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
市川 寛也 群馬大学, 共同教育学部, 准教授 (60744670)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
郡司 明子 群馬大学, 共同教育学部, 教授 (00610651)
村山 修二郎 秋田公立美術大学, 美術学部, 准教授 (60823119)
占部 史人 静岡大学, 地域創造学環, 講師 (90844994)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | 図画工作科 / 工芸 / アートプロジェクト / 社会教育 / ワークショップ / 民衆文化 / 創造性 / 生業 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、小学校図画工作科の教科目標に示される「楽しく豊かな生活」を出発点に、芸術学と教育学とを架橋した「創造的生活学」の構築を目的とするものである。研究の実施にあたっては、研究者・実践者・アーティストの連携に基づく実践コミュニティを形成することにより、理論と実践の両面からアプローチする。 2022年度は、岩手県胆沢郡金ケ崎町に所在する「金ケ崎芸術大学校」を研究拠点とし、主に工芸領域を中心とした実践研究に取り組んだ。具体的な手法として、研究協力者との協働のもとに《生活者工房》と称するアートプロジェクトを立ち上げ、漆芸や陶芸のワークショップを行った。その際、工芸教育を「学校教育」「職業教育」「社会教育」の3つの視点から分類した。その上で、生活の延長線上に工芸(生活に使うものをつくること)に関わる場を設えることを目指した工房(本来の意味でのワークショップ)のあり方を検討した。一連の研究成果については、美術科教育学会にて口頭発表を行った。今後、論文としてまとめていく計画である。 また、理論研究の観点からは、民衆文化における創造性の位置づけについて、妖怪文化を対象とした研究にも取り組んでいる。現代社会における妖怪文化の創造のされ方に着目した時、その担い手となっているのは、地縁や血縁に基づく従来型の共同体というよりも、興味や関心を共有する人々のゆるやかなつながり(動機縁)を基盤とするコミュニティであることが少なくない。ここには、本研究が掲げる「創造的生活」の一つの現場を見出すこともできるだろう。なお、この研究成果については、法政大学江戸東京文化研究センターにおけるシンポジウムにおいて「妖怪アート」という観点から口頭発表を行い、報告書が刊行された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
岩手県胆沢郡金ケ崎町を拠点とする実践研究については、概ね当初の計画通り進めることができた。夏休み期間中に実施した「小学生ウィーク」では、庭や公園などにある植物を素材にしたワークショップを行い、創造的日常を構築するための一つの観点を得ることができた。ただし、本実践の成果については、まだ学会等における発表の機会を設けていないため、今後の課題としたい。 上記の実践に加えて、アートプロジェクト《生活者工房》の実践を通したアクションリサーチも、参加者に恵まれ推進することができている。ただし、工芸を対象とする社会教育プログラムについては、他の地域における同種の事例との比較については十分に取り組むことができていない。今後、博物館等における事例を調査することで、研究を深めていきたい。 また、今後に向けた展望として、共同研究者との実地調査および打ち合わせも進めることができた。2023年度には、事前のリサーチに基づくワークショップを実施する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では「創造的生活学」という領域を提唱しているわけだが、いまだ萌芽的な状態にあるため、内容は十分に固まっていない。今後は、「生活の芸術化」をめぐる研究会などを開催することにより、理論的な側面からその輪郭を補強していくことを想定している。 初年度は、シンポジウムに招聘されたことを契機として「妖怪」を主たる対象とした調査を先行してきた。特に、「妖怪アート」という術語はその妥当性も含めて今後のキーワードになり得る。そのため、次年度以降もこのテーマを継承しつつ、地域社会における文化芸術の内発性と外発性のジレンマという視点から研究を深めていきたい。これに加えて、地域の祭りや郷土芸能などにも調査の対象を拡大することで、より広い視野から生活文化の創造に関わる理論的モデルの構築を進める。 上記の理論研究と並行して、アートプロジェクトの実践を通したアクションリサーチを展開する。2023年度には、生活の基盤となる「家」をテーマに掲げ、共同研究者および研究協力者との協働によるワークショップの開発に取り組む。具体的な手法として、まちなかで拾得したもの(ファウンド・オブジェクト)をもとに「家の記憶」を可視化する活動などを想定している。また、初年度に引き続き《生活者工房》によるワークショップの実践研究も進める。 また、本研究では芸術学と教育学とを架橋することにも主眼を置いているため、特に教育実践としてのモデル化にも展開していく。これらの理論と実践の両面から、「創造的生活学」の枠組みを構築していきたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、2022年度に想定していた調査・実践の一部が延期(中止)となったため、次年度使用額が生じた。
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Research Products
(3 results)