2023 Fiscal Year Research-status Report
思想史研究による「内面-外面」図式の再考に基づく、「心」概念の探究枠組みの刷新
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22K18446
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
古田 徹也 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (00710394)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | 心 / 内面 / 外面 / 懐疑論 / 言葉と心 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度は、他者の内面にまつわる懐疑論をめぐって、その内実と問題を明らかにする研究を遂行したが、本年度はこの成果を踏まえて、二つの方向性から研究を進展させた。 まず、言葉と心の関係という観点を軸にして、「心」概念の内実を掘り下げて古来の特徴づけを批判的に検討する作業を進めた。具体的には、言葉と思考や、言葉と世界観といった関係性をめぐって、前期ウィトゲンシュタインの哲学を検討したほか、プラトン、ダンテ、コンディヤック、ルソー、ヘルダーなど、古来の言語起源論における心と言葉の関係性を整理し、また、ライプニッツ、ヴィルヘルム・フォン・フンボルト、ヤーコプ・グリムらによる言語論を精査した。その成果の一端は、「人生の意味論と前期ウィトゲンシュタイン」(『人生の意味の哲学入門』森岡正博・蔵田伸雄編、春秋社、2023年、209-237頁)、および、「浄化する――ライプニッツのドイツ語改良論」(『汚穢のリズム:きたなさ・おぞましさの生活考』酒井朋子・奥田太郎・中村沙絵・福永真弓編、左右社、2024年、88-95頁)として公開している。 また、応用的な研究として、謝罪という行為における他者の心中に対する懐疑論をそれとして特徴づけ、その意味と重要性を解明した。特に重要な損失にまつわる謝罪には、誠意というものが本質的な重要を有することになるが、他者の心中を確実に知ろうとすることは避けがたく懐疑を呼び込むことになる。それゆえ、誠意の証しがそこに求められることになるが、そうした証拠や根拠の要求は懐疑論を強化することにもなる。以上の消息をめぐる研究の成果は、『謝罪論:謝るとは何をすることなのか』(柏書房、2023年)として公にしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
原理論的な研究の深化と、応用的な研究の進展の双方で、成果を出すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、これまでの研究全体を総合して、人間のアイデンティティや固有性、統合性といったものと、「内面-外面」図式の関係について検討を行う。それによって、同図式において「内面」として位置づけられるかぎりでの「心」の同一性や内容に、人間のアイデンティティや固有性、統合性を重ね合わせることの問題を浮き彫りにしつつ、「私が私であること」あるいは「自己疎外」といったものの内実について新たな解釈を示すことを目指す。
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Causes of Carryover |
海外出張等の予定が次年度にずれることとなったため。
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