2022 Fiscal Year Research-status Report
Multilingualism in Central and Eastern European literature in the postmonolingual era
Project/Area Number |
22K18469
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
増本 浩子 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (10199713)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 唯史 京都大学, 文学研究科, 教授 (20250962)
Grecko Valerij 東京大学, 教養学部, 特任准教授 (50437456)
|
Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
|
Keywords | ポスト単一言語主義状況 / 多言語主義 / ドイツ語圏現代文学 / ロシア語圏現代文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は現代文学をグローバル化時代の「ポスト単一言語主義状況」に位置づけた上で、文学作品に見られる多言語性の類型と美的原理、およびその美的機能について明らかにすることを目的とする。効果的に研究を遂行するために、対象を中東欧、特にドイツ語圏とロシア語圏(旧ソ連)の現代文学に限定している。ソ連崩壊とそれに伴う東欧の歴史的変革と、ドイツを中心に進行中の大規模な移民の流入によって、中東欧では言語と文化と政治が複雑に絡まり合ったダイナミックな問題系が先鋭的に出現しているからである。 2022年度はドイツ語圏とロシア語圏における多言語文学の成立過程に注目しつつ、それぞれの特徴を整理した。プロジェクト・メンバーは各自が担当するテーマに関する研究を推進し、研究会で情報の交換や進捗状況の報告を行った。また、2023年3月にはポーランドの現代作家オルガ・トカルチュクの専門家である小椋彩助教(北海道大学)の協力を得て、ワークショップ「中東欧の現代文学における多言語性」を開催した。 ドイツ語圏の作家としては主に多和田葉子を分析対象とし、いわゆるエクソフォニー作家である多和田が小説『地球にちりばめられて』(2018)では多様性を前提とした共通言語の存在を示唆しており、多和田がいまや母語から母語ではない言語へと向かうのではなく、そもそも母語という概念を超えた言語理解へと向かっていることを確認した。 ロシア語圏に関しては、まずソ連期の民族作家たちの活動について概観し、文学作品に見られる民族語と(リンガ・フランカとしての)ロシア語との関係について、特にダゲスタンの詩人ラスル・ガムザトフを例にとって考察した。また、ソ連崩壊後のロシア語文学においては多言語性がますます顕著になっているが、英語をはじめとする西側諸国の言語が多用され、旧ソ連の民族語はほとんど使われていないことが明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していたロシアでの資料収集は、ウクライナへの軍事侵攻が続いている状況を考慮して中止にせざるを得なかったが、入手済みの資料やweb上のデータベース等で公開されている資料などを使って、ほぼ計画通りに研究を行うことができた。研究の成果はワークショップや学術誌等で発表することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
多和田葉子に代表されるエクソフォニー作家や、モスクワ・コンセプチュアリズムの詩人、ロシア・ポストモダン文学の作家の作品を具体的な分析対象として、①類型論的アプローチ、②構造論的アプローチ、③比較文学的アプローチの3つの観点から考察する。プロジェクト・メンバー間の情報の共有と意見交換のために、神戸または東京で定期的に研究会を開催する。ウクライナ戦争の状況を注視しつつ、海外渡航が可能であれば、メンバー全員が各担当地域を訪問し、資料収集・調査、研究打ち合わせを行う。海外での調査と、学際的な視点を必要とする分析・考察においては、各メンバーが有する国際的な研究者ネットワークのサポートを得る。特に有力な研究協力者は、ドイツ・トリーア大学文学部のヘンリーケ・シュタール教授(ロシア文学、メディア論)、ドイツ・ベルリン自由大学比較文学研究所のゲオルク・ヴィッテ教授(比較文学、文化政策)、ロシア科学アカデミー言語学研究所のナターリヤ・アザロヴァ教授(言語学、翻訳論)である。海外の研究協力者を日本に招聘し、研究会を開催する。研究成果は国内外の学会や国際シンポジウム等で報告し、論文にまとめる。
|
Causes of Carryover |
ロシアで資料収集を行う予定だったが、ロシアによるウクライナ侵攻が続いている状況を考慮して渡航を見合わせたため、旅費を使い残す結果となった。2023年度もロシアへの渡航が困難である場合は、ジョージア(旧グルジア)やバルト三国等、旧ソ連で安全な地域に渡航して資料を収集する。
|