2023 Fiscal Year Research-status Report
Universal limit for the action of an agent maximizing utility
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22K18526
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
田中 琢真 滋賀大学, データサイエンス学系, 准教授 (40526224)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | エージェント / 効用 / 熱力学的ポテンシャル / 意志決定 |
Outline of Annual Research Achievements |
効用に従って行動するエージェントについての数学的な定式化を行い、非可逆性を示すことに成功した。一種類の消費財の消費量の関数である上に凸な効用を時間割引して足したものの期待値に基づいてエージェントが行動を決定するとする。減耗しない資本(土地とよぶ)と減耗する資本(債券とよぶ)があり、土地の価格は変動するが、債券の価格は変動しない(が債券には定められた利率がある)とする。主体はこれらの資本によって生産を行う。将来の土地の価格(地価)に不確実性があるが、主体は資本の量を(購入・売却をしないことで)一定に保ち続けることができるとする。主体は資本の量を一定に保ち続けるよりも期待効用の高い行動を選ぶとする。期待効用を最大化する行動を選ぶとしてもよいが、必ずしもそのように仮定する必要はない。このとき、各時刻にこの主体が資本の購入や売却を行い、初期状態と最終状態において持っている資本の量が一致したとする。すると、消費財の量で測った資本の売却額と購入額の差の符号は常に一定であり、具体的には、主体が正味では消費財を必ず得ることになる(消費財を正味で失うことはない)ことが示せた。これを熱力学におけるケルヴィンの原理と同じ役割を果たすものとして扱うと、ポテンシャルを定義できる。このポテンシャルは、二つ以上の主体が資本をやりとりをするときには必ず減少する。さらに、逆にこのポテンシャルを熱力学的ポテンシャルと考えると、準安定状態についてのモデルになっていることがわかる。具体的には、生産関数に上に凸でない部分がある場合にこのような準安定状態が発生する。 また、社会における闘争のモデリングも行って論文化し、文化の伝播に関する実証的なデータ分析も行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以上のとおり研究が進んだので、論文化を現在進めているところである。本研究費の研究期間中に論文投稿ができそうなので、進捗はおよそ予定通りであると評価している。地価が変動する場合については証明ができたが、生産関数が確率的に変動する場合については、効用関数が直線である場合以外、証明ができていない。当初はこの証明も行うつもりであったが、数値計算的に確認したところ、反例が存在している可能性があることがわかった。 ただし、生産関数が変動する場合でも、生産関数を固定するか、生産関数をランダムに変更するかを任意に選べる場合には、効用を一定に保ち続ける行動を選ぶことができ、これは現在の証明の範囲内に入るため、ポテンシャルの成立を示せる。 さらに、社会における闘争のモデリングについては学会発表も行い、論文も投稿している。文化の伝播に関する実証分析や言語に関する分析についても、本研究費で購入した資料や設備で研究を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
論文の執筆を今年度中に完了させ、投稿する。また、並行して進めてきた社会における闘争のモデリングについては今年度中に査読付き論文としての受理を目指す。これに加えて、文化の伝播についての実証分析や言語に関する分析も進めていく。文化の伝播については、長期にわたり大量の作品が残っており、短章性の高く機械学習の手法によって扱いやすい文藝ジャンルを選んで、これまでされてきた研究との整合性を確認しつつ、研究を進める。言語については、言語類型論での知見をコーパスを用いて機械学習の手法で検証する研究を行う。これらについてはいずれも予備的な結果が得られており、今年度中に何らかの成果発表ができるとの見通しを持っている。 さらに、これまでに得られた成果を適用可能な現象を探す。闘争のモデリングについてはいくつかの国家分裂の例について数値的な検証を行っているが、確実なデータがあるものが少ない。トイモデルとしての興味もあるが、さらなる実例が見つかれば好ましいと考えているので、データによる実証の努力も続ける。
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Causes of Carryover |
研究はよく進んだが、ここまでのところ成果は主に理論的な方面に偏っており、計算機の使用の必要性が高まらなかった。学会発表もまだ多くはしていない。今年度は実証のため計算機実験を行う。そのため、計算機を多く利用し、機材の購入を行う。計算機に関しては電源の増強も含めた費用が必要になる。ほかの経費との兼ね合いもあるが、GPUサーバの導入も予定している。また、成果発表のため学会発表を行うため、旅費を多く計上することになる予定である。旅費については、複数の研究室を訪問し滞在して議論することも含め、学会に複数回長期にわたって出張する。研究協力者である学生の旅費も計上する。論文発表のための英文校閲費用も複数回分計上する。
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