2023 Fiscal Year Research-status Report
細胞内水の状態観測による凍結保存メカニズムの再検討
Project/Area Number |
22K18678
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
内田 努 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (70356575)
|
Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
|
Keywords | 接着細胞 / 凍結保存 / トレハロース / ラマン分光 / 近赤外分光 / 誘電分光 / 凍結液物性 / 脱水 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞の凍結保存は半世紀以上前に開発され、畜・水産業等で実用化されている技術である。そのメカニズムは「細胞外水の凍結による細胞からの脱水と細胞内水のガラス化」であるとされている。しかし神経細胞など高需要でも凍結保存できていない細胞種があり、細胞内水のガラス化も実験的に証明されていない。そこで本研究は凍結保存メカニズムを実験的に再検討するため、天然の凍結保護剤(CPA)であるトレハロースを用い、トレハロース輸送タンパク質を発現させた標準細胞(CHO-K1)と、透水性を向上させた細胞の2種類のユニークな細胞系を使って、凍結過程における細胞内水の状態を変えた実験を行う。そして細胞を顕微鏡観察しながら水の状態を3種類の分光(Raman、近赤外、誘電)測定で観測し、細胞からの脱水過程の評価と、細胞内水の状態評価とを行うことを目標としている。 令和5年度は、令和4年度に開発した接着状態の細胞を凍結保存する技術を用いて、細胞を含む系における近赤外分光を除く分光測定を行った。Raman分光測定では、使用したCHO細胞由来の特徴的なスペクトルを計測することができたがH2Oの信号が取りにくいことが分かった。誘電分光測定では、トレハロースを含む培養液にて凍結した細胞試料の計測を行い、不凍液相の信号が取れにくくなることを見出した。また接着細胞の生存率が十分に高くなかったため、トレハロース透過細胞と非透過細胞との差があまり出なかった。近赤外分光測定は、細胞の生存率が低いため今年度の計測は見送ったが、前年度行ったトレハロース水溶液の計測結果を論文にまとめて一般雑誌に投稿した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、凍結保存時の細胞内水の状態がガラス状態であるのか、また凍結保存時の脱水の効果がどれほど重要であるのかを実験的に明らかにすることを目的とした。そのため実験には、標準細胞(CHO-K1)の細胞膜機能を修飾したCHO-TRET1・CHO-AQP4細胞という2種類の細胞を用いる。そしてそれぞれの細胞を用い、凍結前・凍結中・凍結後の細胞の[A] 顕微鏡観察と[B] 3種類の分光測定から細胞の脱水効果と細胞内水の状態変化を調べ、定説となっている凍結保存メカニズムを検証する。 [A]接着細胞の凍結過程の観測と生存率の測定では、細胞の冷却・凍結に伴う脱水状態や結晶化の有無を観測するため、凍結・融解時の接着細胞の形状変化と生存率を観測する。令和5年度は、接着細胞の凍結保存が可能となる条件を引き続き調べ、[B]の分光測定に使用したり、その技術を国際会議で学会発表することができているため、予定通りの進捗状況である。 [B]凍結過程における細胞内水の分光測定では、Raman、近赤外、誘電の3種の分光学的測定を、接着細胞に対して実施する。令和5年度は細胞を用いた計測を近赤外分光以外で行うことができた。近赤外分光については実施を次年度送りとしたが、昨年度の成果を論文にまとめることができたため、事業としては予定通りの進捗状況であると評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究では、凍結保存時の細胞内水の状態がガラス状態であるのか、また凍結保存時の脱水の効果がどれほど重要であるのかを実験的に明らかにすることを目的としている。そのため実験には、標準細胞(CHO-K1)の細胞膜機能を修飾したCHO-TRET1・CHO-AQP4細胞という2種類の細胞を用いる。そしてそれぞれの細胞を用い、凍結前・凍結中・凍結後の細胞の[A] 顕微鏡観察と[B] 3種類の分光測定から細胞の脱水効果と細胞内水の状態変化を調べ、定説となっている凍結保存メカニズムを検証する。上記【現在までの進捗状況】を受けて、今後の研究の推進方策について項目毎に述べる。 [A]接着細胞の凍結過程の観測と生存率の測定では、令和5年度までに明らかにした接着細胞の凍結保存条件を参考に凍結実験を行い、保存期間依存性や保存期間を延ばすための条件の探索を行う。 [B]凍結過程における細胞内水の分光測定では、令和5年度までに行った接着細胞に対するRaman、近赤外、誘電の3種の分光学的測定を、計測条件を精査して実施する。また凍結細胞、および解凍細胞をつかった計測を行う。そして可視光~誘電緩和域の広波長領域での凍結細胞中の水の挙動をまとめ、凍結・解凍後の生存率と比較して、凍結保存可能な細胞内水の状態を把握する。さらに先行研究で得られたX線回折等の成果も統合し、これまでの定説を検証し新たな凍結保存メカニズムを構築して、凍結保存技術の改良に資する予定である。
|
Causes of Carryover |
研究に使用する消耗品を購入するには不十分な額だったので、次年度分と合わせて使用する予定。
|
Remarks |
雑誌論文は、2024.3.26にAcceptされたため、まだDOIをはじめ詳細情報が得られていない。
|
Research Products
(10 results)