2022 Fiscal Year Research-status Report
高圧合成法を駆使した量子スピン軌道液体候補物質の開発
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22K18680
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
今井 良宗 東北大学, 理学研究科, 准教授 (30435599)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | 量子スピン軌道液体 / 高圧合成 / スピン軌道相互作用 / SU(4)対称性 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画にしたがって,今年度は第4族の遷移金属を含む化合物に着目し,高圧合成を実施した. まず,塩化ジルコニウム(III)ZrCl3の試料合成を試みた.Zrは4価が最安定であることから,塩化ジルコニウム(IV)ZrCl4が市販されており,ZrCl4と単体Zrを原料として用いた.高圧合成を行った試料に対して粉末X線回折実験を行ったところ,既存のZrとClの2元系では説明のできないピークが複数確認された.それらのピークのうちのいくつかは,ジルコニウム酸塩化物(ZrOCl2)のピーク位置とほぼ一致していた.そこで,原料に対して粉末X線回折を行ったところ,高圧合成後に見られたZrOCl2のピークと同じ位置にピークが見られることを確認した.つまり,高圧合成後の試料の回折像に見られたZrOCl2相は原料由来であると確認した.複数の試薬メーカーのZrCl4に対して調査したが,いずれにおいてもZrOCl2の存在が確認できた.これはX線回折実験を行うために,不活性ガスで満たされたグローブボックスからZrCl4を空気中に出した際に,瞬時に空気と反応して,ZrCl4からZrOCl2へと変化してしまったためと考えられる.高圧合成後の試料のX線回折像にはZrOCl2以外にも既存の物質では説明することのできないピークは存在しており,ハニカム相など新規の結晶構造を持つ相の存在は示唆されるものの,原料が瞬時にZrOCl2へと変化してしまうことは空気中では避けることができないため,その新規の相を単相で取り出すことは困難であると判断した. 次に,ヨウ化ジルコニウムの高圧合成に取り組むために,単体のZrとヨウ素を真空封入して,石英管の中での合成を行った.その結果,わずかに未反応のジルコニウムが不純物相は存在するものの,1次元鎖構造を持つZrI3相が主相であることがわかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
塩化ジルコニウム(IV)ZrCl4は,想定していたよりも空気中での反応性が高く,酸塩化物へと瞬時に変化してしまうことが明らかとなった.したがって,高圧合成を用いて合成を行う場合には,ジルコニウム酸塩化物の混入は避けられず,単相で塩化ジルコニウム相を抽出することは困難と判断した.これは予想していない事態であったが,ハロゲン化物の合成にあたっては,不純物のない純良な原料を準備することと,空気中での反応性を把握することが重要であることを再認識することができた. そこで純良な原料を得るための試みとして,市販の原料を用いるのではなく原料となるヨウ化物を,金属単体とヨウ素から合成した.その結果,条件を最適化することで,純良な遷移金属ヨウ化物を作製することができることが明らかとなった.同様の方法を用いれば,様々な遷移金属ヨウ化物を合成することが可能であり,それらを原料として高圧合成を行っていけば,戦略的に新規の結晶構造を有する遷移金属ヨウ化物を開拓して行くことが可能であると考えている.したがって,おおむね順調に研究は推移していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究によって,ジルコニウム塩化物は,空気中での反応性が高く,酸塩化物へと瞬時に変化してしまうことが明らかとなった. そこで本年度は,強いスピン軌道相互作用が期待される4d電子や5d電子を有するさまざまな遷移金属を含むヨウ化物に焦点をあてて,高圧合成を用いた物質開発を戦略的に行う.ハロゲン化物の合成にあたって大切なことは不純物のない純良な原料を準備することである.市販の材料は,空気中の酸素や水分と反応して,劣化した状態になっていることがしばしば見られる.ヨウ素は常温常圧下で固体であるため,単体の金属とヨウ素を適切なモル比で真空中で反応させることによって,純良な遷移金属ヨウ化物を作製することができる.それらを原料として用いることによって,高圧合成を用いて新規の結晶構造を有する相を戦略的に探索する. たとえば,第5族の遷移金属を含むヨウ化物に注目すると,ヨウ化バナジウム(III)VI3はハニカム格子を取ることが知られている.バナジウムを起点として,同族元素のニオブやタンタルを含むヨウ化物の物質開発を行う.ハニカム格子を有するヨウ化ニオブ(III)NbI3の存在は知られていないが,高圧下では稠密なハニカム構造が安定化する可能性がある.高圧下で合成したNbI3の結晶構造を調べると同時に,VI3とNbI3の混晶試料を作製し,ハニカム構造の安定な条件を探索する.その結果を踏まえて,第4族,あるいは,第6族の遷移金属を含むヨウ化物へと研究対象を拡大しながら,研究を進めて行く.
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Causes of Carryover |
2022年度は,当初,高圧合成を実施して得られた試料に対する低温下での測定に係る費用や高圧合成装置の消耗部品に関わる費用を多く計上していた.しかし,当初の予定とは異なり,(1)高圧合成に用いるための原料の検討に多くの時間を要したこと,(2)高圧合成装置のアンビルの状態が想定よりも良い状態であと1-2年の使用を見込むことができること,という2つの理由のために,多くの次年度使用額が生じることとなった.2023度は,2022年度の結果を踏まえて戦略的な物質開発を行う計画であり,その原材料の費用や高圧合成の消耗品の費用が当初予定よりも多く発生する見込みであり,それらの費用へ次年度使用分を充当する.また,低温での測定を今年度予定していたよりも,多くの時間を割いて実施する.今年度は,ヘリウムの供給価格が昨年比で2倍程度に高騰することが,所属機関の低温センターより通知されており,次年度使用分をマシンタイムの増分やヘリウムの値上げ分に充当するとともに,低温での測定系の拡張にも予算を充当する計画である.
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[Presentation] New Kitaev spin liquid candidate ruthenium halides RuX3 (X = Br, I) with a honeycomb lattice2022
Author(s)
Yoshinori Imai, Hideyuki Fujihara, Fuki Sato, Wakana Yamada, Takuya Aoyama, Kazuhiro Nawa, Takumi Hiraoka, Ryotaro Takahashi, Daisuke Okuyama, Yasuhiro Shimizu, Takamasa Ohashi, Youhei Yamaji, Masato Hagihala, Shuki Torii, Hirotada Gotou, Takayuki Kawamata, Masatsune Kato, Masayuki Itoh, Taku J Sato, Kenya Ohgushi
Organizer
29th International Conference on Low Temperature Physics (LT29)
Int'l Joint Research
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[Presentation] スピン軌道モット絶縁体α-RuCl3における超高速磁気光学応答 II2022
Author(s)
天野辰哉, 川上洋平, 伊藤弘毅, 今野克哉, 青山拓也, 今井良宗, 大串研也, 若林裕助, 後藤貫太, 中村優斗, 岸田英夫, 米満賢治, 岩井伸一郎
Organizer
日本物理学会2022年秋季大会
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