2023 Fiscal Year Research-status Report
高圧合成法を駆使した量子スピン軌道液体候補物質の開発
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22K18680
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
今井 良宗 東北大学, 理学研究科, 准教授 (30435599)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | 量子スピン軌道液体 / 高圧合成 / スピン軌道相互作用 / 非線形伝導 / クラスター化合物 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画にしたがって,2023年度は,スピン軌道相互作用が強い4d電子や5d電子を有する遷移金属ヨウ化物と遷移金属酸ヨウ化物に関する研究を行った. まず,高圧合成法を用いて,新しいモリブデンヨウ化物を見出した.モリブデンヨウ化物(Mo6Ix)はモリブデンが六量体クラスターを形成した結晶構造をとることが知られており,いくつかの組成比の化合物が報告されている.既存物質であるMo6I18を高温高圧下に保持することによって,Mo6I15を得た.この結晶構造は完全には明らかではないが,W6B16の結晶構造と類似した構造であると考えている.既知のモリブデンヨウ化物のヨウ素量xは偶数値のみをとることが知られており,一般に磁性を持たない.しかし,今回見出した物質は,xが奇数値を持つのが特徴であり,低温で反強磁性転移を示す.反強磁性転移温度は11 Kである.キュリーワイス温度の絶対値は,反強磁性転移温度よりも大きな値を示しており,この系が強いフラストレーションを持つことを示唆している. 第二に,ニオブオキシハライドNbOI2の電子物性を評価した.この系は,b軸方向に分極を持つ強誘電体であり,新しい原子層強誘電体として,注目を集めている系である.輸送特性を評価したところ,100ケルビン以上では,大きなリーク電流が見られることがわかった.興味深いのは,印加電流の周波数に対して,2倍の周期を持つ非線形伝導を観測したことである.この振る舞いが,結晶構造の対称性の要求に基づいた本質的なものか,それとも,ショットキー接合形成による非本質的なものかを今後明らかにしていく予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は,昨年度得られた知見に基づいて,金属元素とヨウ素を原料として合成した遷移金属ヨウ化物に関する研究に取り組んだ.その結果,高圧合成を用いて,新しい六量体クラスター構造を持つモリブデンヨウ化物を得た.この系は低温で反強磁性を示すが,このように磁性を示すモリブデンヨウ化物は非常に珍しい.今後,モリブデンヨウ化物と同様の合成方法を用いて,さまざまな遷移金属ヨウ化物へと研究対象を拡大していきたい. また,遷移金属ヨウ化物を作製する過程で得たニオブ酸ヨウ化物単結晶に対して電子物性を評価したところ,予想外に,誘電体試料において非線形伝導を観測した.今後,この非線形伝導が結晶構造の対称性の要求に基づいた本質的なものか,それとも,ショットキー接合形成など外因的な原因によるものかを今後明らかにしていく予定である.したがって,当初予定したこととは異なる振る舞いが見られているものの,研究はおおむね順調に進んでいると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究によって,金属元素とヨウ素を原料として遷移金属ヨウ化物を合成する手法の有効性を確認することができた.この知見に基づいて,本年度は,同じ合成手法を用いて,物質系を拡張することを試みる.たとえば,第5族の遷移金属を含むヨウ化物に注目すると,ヨウ化バナジウム(III)VI3はハニカム格子を取ることが知られている.バナジウムを起点として,同族元素のニオブやタンタルを含むヨウ化物の物質開発を行う.ハニカム格子を有するヨウ化ニオブ(III)NbI3の存在は知られていないが,高圧下では稠密なハニカム構造が安定化する可能性がある.高圧下で合成したNbI3の結晶構造を調べると同時に,VI3とNbI3の混晶試料を作製し,ハニカム構造の安定な条件を探索する.その結果を踏まえて,第4族の遷移金属を含むヨウ化物へと研究対象を拡大しながら,研究を進めて行く. また,NbOI2の非線形伝導の観測を受けて,遷移金属酸ヨウ化物に関する研究も並行して進めていきたいと考えている.2023年度に観測した非線形伝導の起源を明らかにするために4端子法での非線形伝導の測定や,サイズを系統的に変化させた試料を用いての測定を行う.さらに,物質系を拡張し,モリブデン酸ヨウ化物の電子物性の測定を視野に入れている.この系は,軌道選択的パイエルス転移が理論的に示唆されている.まずはこの系の単結晶試料を作成し,輸送特性を精密に評価することによって,得意な伝導特性が現れるか否かを明らかにする.
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Causes of Carryover |
本研究計画をさらに推進するために,東京大学大学院総合文化研究科から,光学窓付きギフォード・マクマホン式(GM)冷凍機,ファンクションジェネレータ,周波数カウンタの動産貸付の手続きを進めている.当初は2023年3月に装置の移設の手続きを完了する予定であったが,繁忙期であったため,移設を依頼する業者の車両の手配がつかず,移設の時期が2024年4月にずれ込んでしまった.それに伴って,移設に見込んでいた金額を次年度へと繰り越すこととなった.繰り越した研究費は,2024年4月に予定している装置の移設費用へと充填する予定である.
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[Presentation] イオン液体によりドーピングしたα-RuCl3のラマン散乱分光Ⅱ2024
Author(s)
上野優典, 後藤貫太, 中村優斗, 佐藤楓貴, 今野克哉, 青山拓也, 今井良宗, 大串研也, 若林裕助, 岩井伸一郎, 岸田英夫
Organizer
日本物理学会2024年春季大会
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