2022 Fiscal Year Research-status Report
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22K18703
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
陰山 聡 神戸大学, システム情報学研究科, 教授 (20260052)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | 磁気流体力学 / MHDダイナモ |
Outline of Annual Research Achievements |
地磁気の逆転現象は地球ダイナモのMHD(磁気流体力学)シミュレーションによって再現されてはいるが、逆転の詳しい物理機構は未だに解明されていない。本研究では現実の地球に近づけるためにモデルを複雑化してきた従来の地球ダイナモシミュレーションとは対極的なアプロー チをとり、逆転の物理機構解明に焦点を合わせた新たなトイモデル「正4面体モデル」を提案する。このモデルは系の自転をもたないため薄い境界層(エクマン層)が存在しないのが特徴である。また、カーテシアン座標上の等間隔格子という数値計算上は理想的ともいえるほど単純な計算格子が利用できるという特徴もある。地磁気逆転を再現する古典的なトイモデルとしては導体円盤に基づく「力武モデル」が有名であるが、今日の視点からみるとこのモデルはMHDの物理、特に流れの要素を捨象しすぎていた。本研究は力武モデルの現代化を目指すものである。 本年度はこの研究の最重要ツールであるシミュレーションコードの開発に注力した。本研究を開始するにあたり最も心配していたのは、本研究の鍵となる計算手法、つまり、単純なカーテシアン格子を使って正四面体領域の内部を本当に計算することができるかどうかであった。x-y-z軸のそれぞれに等間隔にとった格子点が正四面体の面の上に乗ることことは幾何学的には明らかであったが、差分法に基づくMHDソルバを実際に格子系で動かしてみないと本当にこの方法で正四面体内部のMHD現象を解くことができるかどうかわからない。コード作成を終え、熱対流がおきる設定にして計算を開始したところ確かに熱対流が発生し、この手法がうまくいくことがわかった。またその熱対流はヘリシティをもっていることも確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述のように初年度の最重要課題であるコード開発は終えることができた。MPIによる並列化も済ませたので、本格的なシミュレーション計算はいつでも実行できる段階にまで進んでいる。しかしながら、これまでに行った簡単なテスト計算の結果、このシミュレーションの計算結果を可視化することが意外と難しいことがわかった。その難しさは正四面体というこのシミュレーション領域の特殊な形状に起因する。正四面体の4つの辺のうち相対する2つの辺を水平に配置した正四面体の内部でのMHD流体の熱対流を計算するのがこのシミュレーションである。流れと磁場を解析するためにはこの正四面体配置における水平断面と垂直断面をとり、その断面内部の物理量を可視化する必要がある。幾何学的にはこれらの断面は常に長方形になるので、当初は可視化解析も通常の可視化ツールを用いれば特に困難はないであろうと考えていた。ところが、実際にデータをとってみると、その長方形は2次元カーテシアン格子の上で斜めにきりとった長方形になるので、通常の可視化ツールでは座標変換をしないと可視化することができず、それが思いのほか面倒であった。そこで、本年度の後半は専用の可視化ツールの開発にもとりかかった。これは2次元カーテシアン格子点上にとった斜めにとった境界線があっても等高線などの基本的な可視化を行うことができるツールである。また、シミュレーション実行時に同時に可視化処理を行う(2次元in situ可視化を行う)ことを目指している。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には当初の計画通り進めていく。現在開発中の断面可視化ツールが完成しだい、本格的なシミュレーション計算を始める。すでに磁場を入れた計算も可能になっているが、まずは磁場をいれない(初期磁場を正確にゼロにした)計算をおこない、想定しているこの物理系での流れ場を明らかにする。正四面体内部の熱対流は先行研究がないので、まずは基本的な(層流的な)流れ場構造を理解することが最初の目標である。この種の熱対流問題の研究では線形解析によってまずはレイリー数(対流駆動の強さを示す無次元量)の臨界値を定量的に求めることが基本である。そこではじめに臨界レイリー数を解析的に求めることができないか検討する。ただし、正四面体という特殊な形状の中の不安定性なので、線形解析に必須の適切な基本モード(展開関数)を設定することができない可能性がある。その場合は、数値的に臨界レイリー数を求める。つまり、線形化したMHD方程式を開発したMHDシミュレーションコードで実行し、レイリー数を少しづつ変えた計算を多数行って対流不安定となる解を探す。これにより臨界レイリー数だけでなく、対流の基本モード(流れの3次元構造)を明らかにすることができる。その後は、本来の(非線形の)流体シミュレーションを行う。そして磁場を導入し、MHDダイナモ効果によって増幅された磁場の基本形状を明らかにする。レイリー数が比較的低い場合は生成される磁場は安定(逆転しない)であろうと予想している。次の段階は、レイリー数を上げ、強い磁場が突発的に反転する解を探すこととである。
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Causes of Carryover |
本研究のシミュレーションで計算するのは正四面体という特殊な形状であるが、計算に使用するのはカーテシアン格子上の有限差分法である。この計算手法の特質から、このシミュレーションにはベクトル型の計算機システムが適していることは明らかである。そこで当初の計画ではこのシミュレーション計算のために小型の専用ベクトル計算機を年度途中に導入する予定であった。しかし、シミュレーションコードの開発に予想以上の時間がかかったこと、また、上述の可視化ツール開発の必要に迫られたため、本格的なシミュレーション計算の開始は次年度に回すことにした。物品費の未使用額の大部分を占めるのはこの専用ベクトル型計算機購入の経費である。この市販のコンピュータシステムの一般的な傾向として、購入を急がないことで価格の低下が期待できる。なお、購入予定ベクトル型計算機システムと実質上同じシステムをネットワーク経由でレンタル契約することができる民間のサービスがあることが年度の途中に判明したので、次年度以降は計算機システムの購入ではなく計算機使用料に充てる可能性も検討する。
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