2022 Fiscal Year Research-status Report
結晶粒微細化研究の新展開:ホールペッチ係数制御のメタラジー
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22K18905
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
土山 聡宏 九州大学, 工学研究院, 教授 (40315106)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | 結晶粒微細化強化 / ホールペッチの関係 / 粒界偏析 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、CおよびNを単独で、またはCとNを複合で添加したフェライト鋼を研究対象とした。各種鋼材を溶製し、熱間圧延、冷間圧延、再結晶焼鈍によって結晶粒径が種々異なる試料を作製した。それらに対して室温で引張試験を行って降伏応力を測定し、ホールペッチの関係に整理した。得られたホールペッチ係数をC、N、C+N濃度で整理を行った。一方、これらの試料の化学組成の鋼に対して、Hillertの粒界相モデルとOhtaniの液相モデルを併用した「Hillert-Ohtaniモデル」を適用し、理論上の平衡偏析量を算出した。いくつかの試料については3次元アトムプローブ(3DAP)を用いた偏析C、N量の実測を行い、理論値とほぼ一致することを確認している。実験で求めたホールペッチ係数をCやNの濃度で整理したところ、C/N単独添加鋼、C+N複合添加鋼いずれの場合においても、「ホールペッチ係数」と「理論C偏析量と理論N偏析量の和」が直線関係にあることを確認した。その際、粒界偏析傾向はNよりCの方が圧倒的に大きいため、C+N複合添加鋼のホールペッチ係数はC量に支配されることも判明した。そして以上の結果をまとめて、ホールペッチ係数を偏析C+N量の関数として予測式を構築した。 上記の知見を元に、固溶化熱処理温度を変化させることで粒界偏析量を意図的に変化させ、ホールペッチ係数の制御の可否について調査を行った。具体的には、種々温度が異なる熱処理を施したFe-50 mass ppm C合金のホールペッチ係数を引張試験によって求め、理論から導かれるC偏析量とホールペッチ係数との関係について検証を行った。それによって、上記の予測式の妥当性が示され、鋼のC 含有量と熱処理温度からFe-C 合金のホールペッチ係数を理論的に見積もることが可能であることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
侵入型溶質元素であるCとNは、微量でも粒界偏析によるホールペッチ係数への影響が大きいことがわかっている。また、熱処理時の拡散速度が速いことから短時間の熱処理でも粒界偏析が生じやすく、ホールペッチ係数の制御においてその挙動の理解が最も重要な元素であることは言うまでもない。したがって、1年目において置換型元素が存在しない単独の状態でのCとNの挙動ならびにそのホールペッチ係数への影響を把握できた意義は大きい。今後はC・Nとの相互作用が異なる種々の置換型元素を添加した状態で同様の手法で実験を進めていけば、目標である高HP係数合金の創製への道筋が見えると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目の研究によって、Fe-C (and/or) N合金においてCとNの粒界偏析挙動を理論的に変化させ、それによってホールペッチ係数を制御できることを明らかにできたので、今後はMn、Si、Ni、Crなどの置換型元素が共存する場合のCとNの粒界偏析挙動についての調査に発展させる予定である。たとえばCについては、粒内ではMnと引力型の相互作用を、Siとは斥力型の相互作用を示すと考えられることから、粒内でのC活量が変化することで粒界偏析の駆動力に変化が生じると考えられる。一方、粒界においてもSi・MnとCの相互作用が同時に働くことで、粒界偏析挙動に大きな影響が生じると考えられる。令和5年度は、Hillert-OhtaniモデルをFe-M- C (and/or) N合金合金に拡張し(Mは置換型元素)、1年目と同様のアプローチで粒界偏析挙動、ならびにホールペッチ係数の制御を試みる。
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Causes of Carryover |
購入予定の備品であった卓上マッフル炉については、今年度の実験においては既存の装置での代替が可能であることが判明したため購入を見送ることとした。そのためその単価である約40万円の残額が生じることとなった。次年度にその必要性について再度検討を行う。新規購入が必要がないと判断された場合は、既存の加熱炉の拡充を行うこととする。
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Research Products
(1 results)